日本と中国・韓国の間で『相手国に対する国民感情』が近年目立って悪化しているという世論調査の結果がでているが、『どうして日本(中国・韓国)に悪いイメージを持つのですか?』という理由については、『個別の日本人(中国人・韓国人)に実際に危害を加えられたから・個人としての日本人(中国人・韓国人)が嫌いだから』という答えは全体の1割にも満たない。
それぞれの国の政治や歴史、デモ、教育、世論、領土問題についての『間接的な知識・情報』によって、それぞれの国における敵対感情や悪印象、嫌悪感が作られている構造がある。
それでも、大半の人は『どちらかというと好ましくないイメージ・国家間の外交関係や歴史認識の調整が上手くいっていないイメージ』という感想に近く、日常的に日中韓の外交・歴史に関する感情的な対立を意識したり表現したりすることはほとんどないわけで、常にいつも『政治的・国家主義的な意識(自分と国家とが一体化したかのような心境)』で毎日を生きている人は少ない。
実際に戦争や憎悪表現、差別意識の応酬をしてでも、相手を屈服させたいというほどの敵対感情を抱えた人はほとんどおらず、マスメディアなどが報じる排外主義・差別意識は『一部の過激なナショナリスト』のデモンストレーションが過度に一般化されて語られている向きが強い。
日本でも韓国でも中国でも『特別な記念日・デモ・行事』などを除けば、普通に街中を歩いていて『日本人(韓国人・中国人)』であるという民族の属性だけを理由に罵倒されたり襲撃されたりすることはまずない、その国を安心して旅行できないほどに民族的なヘイトや攻撃欲求が満ち満ちているわけではないからである。
日本でもヘイトスピーチが集団デモで行われているのは東京・大阪の限られた都市だけであり、日本全国を普通に歩いていても『韓国人の排斥デモ・ヘイトスピーチ』などに遭遇することはないし、『メディアやネットの情報』にあまり触れない人であれば韓国・中国に対する特別な意識もそれほど強くないと思われる。
ラディカルな思想が混入した情報・知識や外国人の不正を糾弾する歴史認識に触れることによって初めて、人は『排外主義的・戦闘的な政治主体』になるのであって、普通に消費文明の中で生活していてそういった政治主体になっていくという可能性は恐らく低い。
『中国・韓国側の問題点』としては、国民全体に対する歴史・民族教育として、『反日的な政治主体』を生み出す内容を盛り込んでいるということにあり、日本は政府レベルで『日本の歴史教育の隣国条項』に相当する教育上の配慮(過度の日本への憎悪・敵対を煽らないような内容への変更)を中韓に相互的義務として要請していくべきだろう。
グローバル化が進んで東アジアの自由貿易化も加速する現代では、『国家・民族の壁』を経済的・文化的(観光的)なレベルだけではなく、政治的・意識的なレベルにおいても少しずつ低くしていく努力(過去の怨恨や差別、対立的な歴史認識を将来の子孫の世代にまで引き継がせないようにする努力)を払うべきである。
未来志向のお互いを憎み合わない国民教育や民間交流(経済自由化・文化や娯楽の流通)に力を入れて、EU(ヨーロッパ共同体)のように『歴史認識からの普遍的教訓(どこの国が良いか悪いかという区別の論理を超えた教訓)』を導き出してそれにコミットしていく流れにならなければ、『現時点における東アジア情勢の不安定さ・相互不信の構造』は無くならないだろう。
『外国人だから差別しても良い・国益増進のためなら手段を選ばなくて良い(外国人を殺傷する戦争も外交の一手段に過ぎず国家主権が過剰防衛戦争を正当化する)』という帝国主義時代のような人権感覚が通用するはずもないのだが、そういった人権感覚の手触りを知るためには『メディア・ネット(本)・政治対立を通した国家観ありきの情報』だけではなく、『生身の外国人(目前で冷静な言葉を交わせる心理状態にある人間)との交流・対話の機会』も必要になってくる。