欧米ではその伝統的な家庭生活の前提(男性への長期的な経済的貢献の期待とそのための我慢・忍耐)が崩れたがために、『結婚のオワコン化・相互に縛らない男女関係・シングルマザー(シングルファザー)の社会保障の充実』が進んでいると見ることができる。
『事実婚(同棲・民事契約)なら良くても、法律婚をするのは嫌だという心理』は突き詰めると、血縁のある子供であれば生涯の付き合いを続けていく(縁をずっと切らずに困った時には助けて上げたい)という覚悟があるが、パートナーの人生全体にまでは相互に責任を負いたくない(今は好きでも死ぬまでの好意や貢献を持ち続ける自信がない)という気持ちの反映なのだろう。
日本でも既婚者全体に占める離婚経験率は30%を超える高さになっているが、特に女性は『子どもとの縁の強さ』と比べれば『男性との縁の強さ』は相当に弱い傾向があり、『配偶者と生涯連れそうという婚姻制度の前提』は既にその屋台骨がかなり揺らいでいる状況にある。昔であれば、何らかの理由や原因、変化で口を聞きたくない(顔も見たくない)ほどに嫌いになった配偶者とでも、離婚はせずに家庭内別居や相互不干渉(冷戦)のままで人生を終えていたが、近年ではそこまで我慢せずに熟年離婚を決断してしまう人の比率が増えている。
結婚はオワコンかという問いについて、日本ではまだ子どもを育てるという男女共通の目標と非嫡出子の不利益・偏見があるために、子どもが欲しいというカップルでそれなりの雇用・所得があれば結婚するだろう。
欧米社会に見られる婚姻制度のオワコン化というのは畢竟、『特定の異性(配偶者)との終身的に良好な関係性(死ぬまで切れない縁)』を作り上げることが困難だという現実から目を背けない男女が増えたということを意味している。日本では元々、息が詰まり身を焦がすほどに惚れに惚れた異性と連れ合いになるというロマンティックラブ・イデオロギーと癒着した婚姻は主流とは言えなかった面もある。
日本では婚姻にしても離婚にしても、『世間体(周囲の目線・干渉・批判)』と『みんなと同じライフスタイル(同調圧力)』が婚姻を増やして離婚を抑制してきたというところがあり、1980年代以降にその二つの要因が急速に弱まり、都市化と自由化、男女平等化(女性の就労率)が促進して男性雇用が揺らいだことが『晩婚化・未婚化・少子化』の原因になっている。
婚姻制度は、育児・税制・世間体において未婚よりも有利な待遇があるという『実利』、お互いに好きになった異性と生涯にわたって支えあって連れ添うことを社会に明示するという『ロマンス・独占欲の公認』、夫婦が揃っていて男性の家計負担がないと家庭や子育てが維持できないという『男性原理』、みんなが結婚して子どもを産むライフスタイルを実践しているから自分もそれに倣わなければならないという『数の論理・慣習的優勢』によって支えられている。
それらの要因が一つずつ減っているとするならば、法的な婚姻は事実婚に置き換えられやすくなるし、夫婦揃っての育児ではない母親(父親)だけの育児も増えてくるだろう。
しかし、ずっと結婚した特定の相手だけであるか、別の異なる相手に途中で変えるのかを問わなければ、男が女を求め、女が男を求めるという生物学的本能に根ざした男女関係の構築そのものは今後も終わることは当然ないはずである(ただ特定の相手との関係性の持続期間は短くなる傾向を示しやすい)。
『子どもに対する愛情・責任』と比較した場合に、『配偶者(特に男性)に対する愛情・責任』は相対的に弱くなりがちだが、今までは『男性(大黒柱)がいないと家計と育児のコストが持続的に賄えないという現実』が、配偶者に死ぬまで連れ添ってケアして上げなければという情愛と義務感を育ませていた。そういった現実の変容が急速に進むというのであれば、婚姻制度の利用率・既婚率は減少しやすくはなるかもしれない。
○関連URL
結婚は“オワコン”なのか?:2