映画『図書館戦争』の感想

総合評価 85点/100点

現在でも少年犯罪(凶悪犯罪)や治安悪化の原因として、ホラー映画(クライム映画)やアダルトコンテンツ、暴力表現が『健全な人格構造・価値観の形成』を直接的に歪ませて犯罪を増加させるという意見はあるが、発達心理学的に『メディア強化説』が立証されたことはない。

しかし、善良・潔癖な市民や道徳的な識者が“公序良俗”を盾として、『不健全で暴力的と見なされるメディア(コンテンツ)』を規制しようという動きはいつの時代にもある。『図書館戦争』は言論・表現の自由を守ろうとする“図書隊”と公序良俗のために本の検閲・焼却をしようとする“メディア良化隊”との戦いを題材にした近未来映画で、そこに図書隊内部の恋愛や人間関係のエピソードを挿入することで物語としての厚みが増している。

正化(せいか)31年、あらゆる不正・有害とされるメディアを取り締まる法律『メディア良化法』が施行されてから30年が経過した日本では、『言論・表現・思想信条の自由』を守る最後の砦として図書館がある。図書館は『武力による強制的な検閲』を法的に認可されたメディア良化隊に対抗するため、専守防衛を実行する独自の武装組織『図書隊』を結成する。

図書隊員は『見計らい図書(資料収集のための本の買取り)』『図書館施設の自衛権』など法的な特権を駆使し、市民が過去の時代のようにあらゆる本に触れられる自由を死守しようとしていたが、書店や図書館に強行突入してくるメディア良化隊との間で何度もの武力衝突が起こる。敵を殺さずに威嚇射撃に留める専守防衛の原理原則を貫く図書隊は少なからぬ犠牲者を出し続けているが、あらゆるメディアが検閲される監視社会において、資料収集と閲覧機会の確保を進める図書隊の士気と結束は高い。

高校時代に読みたかった本と自分をメディア良化委員から助けてくれた図書隊員を“王子様”と呼んで憧れている乙女チックな笠原郁(榮倉奈々)が図書隊に入隊。笠原郁は必死に軍事訓練や図書館司書としての業務に取り組んでいるが、ドジで失敗したり体力が追いつかないことも多く、鬼教官の二等図書正・堂上篤(岡田准一
)にいつも怒鳴られて厳しく指導されている。憧れの優しかった王子様の図書隊員と比較して、言葉遣いが荒くてユーモアもなくいつも怒っている堂上篤をいけすかない上司として嫌う笠原だったが、所々に見せる堂上の本音の優しさや隊員を思う行動力に少しずつ惹かれていく。

図書隊とメディア良化隊の本格的な激しい銃撃戦が見所になっているが、『図書館の自由に関する宣言』を掲げて言論・表現・図書閲覧の自由を飽くまで専守防衛で守ろうとする理念的な部分にも引き込まれる。笠原郁と堂上篤の過去の思い出が関係する恋愛ストーリーには、笠原のことを仕事が出来ない仲間だと軽視していたエリート新入隊員の手塚慧の突然の告白も絡んできたりするが、アクションと恋愛や人間関係、思想的な対立などバランスの取れた映画の構成になっていて楽しめる仕上がりになっている。