法・市民社会に追い詰められる“ヤクザ(暴力団)”とグレーゾーンで台頭する“半グレ(不良集団)”

山口組直系の『英(はなぶさ)組』の組長・津留英雄容疑者(77)が、ウェブ上の誰でも閲覧できる公開掲示板で『半グレ(不良集団)の実力排除』を示唆した暴力行為処罰法違反の容疑で逮捕された。77歳の年齢でインターネットを使いこなし、自分の政治・社会に対する論評を書くブログまで開設するような先進的な組長として知られた人物だという。

「半グレ排除」ネット掲示板で組員に“指示”した山口組直系古参組長の“ITリテラシー”

パスワード認証もかけない『公開の掲示板』で犯罪の証拠になりかねない書き込みをしたのは迂闊だが、『半グレごときが大きな顔をして歩く世の中。困ったことです。それも、これも「暴排条例」なる珍奇な法令の副産物である。せめて、わが城下町だけでも断固!これを「許しまじ」である』という内容は、暴力団の縄張り意識や上下関係が通用しない『不良集団の増加(暴力団の承認を得ないシノギ=犯罪収益の増加)』を思わせるものである。

東京ではクラブの店内で人間違えの殺人事件まで引き起こした『関東連合』という半グレ集団が話題になったこともあるが、ヤクザの組員でもなく堅気の一般人でもないが犯罪行為(暴力による威嚇を伴う行為)を生業とする『半グレ(不良集団)』が増加しているという。暴力団と比べると半グレ集団は、警察にその集団組織を登録されてマークされているわけではないので、『規制の強度』が弱くて『活動の自由度』が高いという有利さがあり、一部の地域では暴力団よりも派手な動きをして多くの収益源を確保しているとされる。

法律・条令に基づいて警察に監視されている暴力団が、半グレの不良集団(法的には一般民間人と同じ立場)に対して暴力的な威圧を掛けたり、組の命令に従う系列下に置くことは難しくなっており、昭和期までの繁華街にあった暴力団による不良集団・無法者(荒くれ者)・風俗業の管理秩序は崩壊しつつある。

半グレの中には喧嘩での傷害を通り越して、半グレ同士の抗争(利益争い)で殺人まで犯す者がいたり、犯罪を収益源にしている集団もあるので、実質的にはヤクザと変わらず、外見的にも全身にタトゥーを入れていたり、威圧的な風貌で徒党を組んでいたりして、一目で暴力行為と近接した集団であることを匂わせている。

『半グレ』はやっていることは暴力団とほぼ同じでも、その組織の構成員が流動的であったり、組織の構成や非合法な収益の内容(出所)を警察が把握できなかったりすることで、『暴対法・暴排条例の適応外』となり、個別の犯罪で摘発される以外は集団全体が監視下に置かれたり、活動上の法規制を受けたりするわけではないという矛盾もある。

歴史的に非合法な民間暴力とそのシマを、一定の秩序(公権力との持たれ合い)の下に独占支配してきた『暴力団』にとっては、暴力団の既成秩序(上下関係)に従わない『半グレ集団』は津留容疑者が言うように『許すまじき存在』ではあるのだろうが、暴力団と冠されながら暴力が封印されているヤクザにとっては、勢力を強める半グレに対抗する手段が乏しくなっているのかもしれない。

かつては腕力や威圧、柄の悪さ(無鉄砲さ)を売りにしているような『ヤクザ者・不良同士の世界の暴力沙汰(上下関係を取り決める揉め事)』には、警察も余り首を突っ込まなかったが(ヤクザが不良分子を取り仕切って配下にしていく裏社会の秩序は治外法権化していたが)、近年は暴力団排除の世論の強まりもあり、職業的なプロとアマチュアの中間領域で動くことができる半グレのような暴力集団が跳梁跋扈しやすい問題も出てきている。

地下経済の実態は依然として推測によるものが多いので、既に半グレ集団の一部はヤクザの傘下に入っている可能性もあるが、こういったヤクザによる半グレ排除の事件などが起こっていることを見ると、『ヤクザの系統的な支配秩序(従属的な立場・収益の一部の上納を前提に縄張り内での非合法活動の営業を承認する秩序)』に組み込まれずに、自由に非合法活動・示威的行為をしている反グレ集団も少なからずいるのだろう。

しかし、逮捕容疑として出されているコンビニで屯しているような10代のヤンキー集団を、組の代紋や凶器携帯の威嚇で脅しても、そういった集団は『思春期の過渡的な反抗期の現れ(特別な犯罪には手を染めていない恰好だけの不良)』に過ぎず、関東連合のような『暴力団近似のシノギを持つ本格的な半グレ集団』ではない可能性が相当に高いと思うのだが……。