殺人事件をはじめとする被害者遺族の権利回復や感情慰撫については多くの取り組みがなされるようになってきているが、『連座制(家族の連帯責任)』を廃止した現代でも未だ、『家族の犯罪』によって他の家族が風評被害を受けたりその土地で暮らせなくなったり仕事を失ったりする問題が起こっている。
子どもを虐待(ネグレクト)して性格形成を歪ませたり、非行・犯罪の性向があると分かっていながら放置し続けていた親であれば、『子の犯罪の原因』の一端を間接的に担っていたという道義的責任の追求の余地はあるかもしれないし、年齢によっては民法上の未成年者に対する保護者(親)の保護監督責任が発生する。
また、明らかに家族が共謀したり教唆したり黙認したりしていたような犯罪であれば、家族も一緒に非難されるべきであるが、本人に責任(容疑者の事件に至るまでの原因への関与)がない『親の犯罪』によって『子ども(本人)の非難・不利益』が起こったり、『兄弟姉妹の犯罪』によって『本人の非難・不利益』が発生したりするのは理不尽ではある。
マスメディアは芸能人のローラのバングラデシュ人の父親が、外国で医療を受けたように見せかけて海外療養費を騙し取る健康保険の詐欺を働いたというニュースを流したが、客観的に見ても『ジュリップ・エイエスエイ・アル容疑者の逮捕』よりも『逮捕されたバングラデシュ人がローラの父親であること』に重点が置かれていて、作為的にPV・視聴率を稼ぐために『犯罪者の家族』をダシに使っている。
被害者家族と同様に加害者家族(犯罪者の家族)の権利保護も重要な課題として上がっており、ローラの風評被害・心理的負荷の件とは全く比較できないレベルの事案では、幼女連続殺人事件で死刑執行された宮崎勤容疑者の家族は、一家離散に追い込まれて父親は逮捕後に自殺している(宮崎勤の性格形成・精神病理性と両親の養育態度との相関は不明であり、他の殺人加害者にありがちな虐待・暴力などの事実もないとされている)。
ここまで極端な事例はレアであるが、殺人事件の加害者として逮捕された容疑者の家族がその事件と直接の関係がなくても、自宅に脅迫電話がかかり続けたり落書きをされ続けたりなどの嫌がらせは後を切らないし、小さな子どもが差別・脅迫を受けることもある。
家族が重犯罪を犯した場合には、仕事も生活拠点も失って一家離散に追い込まれることが多いわけであるが、(容疑者の犯罪行為と家族の関わり方との相関が確認できないケースでは)『犯罪者の家族』であることを意図的に広めて知らされない権利、不当な嫌がらせを受けない権利をマスメディアが意識的に守っていくことも大切だろう。
特に、親の犯罪によって子の人生が大きく狂わせられることなどはできるだけ回避すべきであるし、痴漢・窃盗・覗きなどの重大事件ではない犯罪であっても『無関係な家族に対する嫌がらせ・風評被害』が起こることはあるので、不特定多数からの社会的制裁が家族にも及びやすいウェブ社会では、『実名報道の基準・他の家族との関係性の明示』についてはマスメディアに配慮が求められるように思う。
芸能人の場合にはどうしても有名税を支払わせられる形になりやすいし、家族の誰かが芸能人としての知名度が高くなっている場合には、それだけ周りの家族も自分が違法行為を犯したり社会的問題を起こさないように襟を正すこと(有名人となった家族に迷惑をかけないように自制すること)が何より大切ではあるが…。