『集団の形式的な一体性』と『個人の実際的な多様性』を区別しない典型的な弊害の問題として『一般市民を標的にしたテロリズム』があり、『敵対していると見なす相手国』を攻撃したり政策を転換させるために、『敵対的な思想や差別を持っていない可能性も高いその国の一般市民』を脅したり傷つけたり殺害したりするのである。
この記事は、『保守派（右派）の言論活動の台頭と『失われた20年』を通した日本国民の意識変容：仮想敵と見られ始めた中国・韓国』の続きになっています。
北朝鮮による拉致事件の国家犯罪の最大の問題も、日本を一方的に仮想敵にしている北朝鮮が、『敵対的な思想や差別を持っていない可能性も高い日本の一般人』を暴力的に拉致したことにあり、『国家間の対立問題（敵対国への示威・恫喝）』を理由にして『一般市民の生命・身体・尊厳・財産』に危害（恐怖心）を与えるテロリズムやヘイトスピーチは現代では許されないと考えるべきだろう。現代の巨大化して相互依存性を強めている国民国家は、古代ギリシア・ローマのポリス（都市国家）のように一般市民がすべて戦士となって戦う『戦争共同体』ではないし、思想教育された常備軍を整えて植民地・市場（資源・労働力）の争奪戦に乗り出した近代国家の『世界戦争・思想統制の歴史』は悲惨な反省すべき過去として認識されている。
国家間の外交関係が思わしくなかったり主権・領土・歴史解釈を巡る争いが起こっていたりしても、『その国に帰属している人間』を一まとめにして傷つけたり侮辱したり脅したりして良いわけではない。
現代の先進国であれば『政権・政党政治家の政策』はともかく、過半の一般人は『それほど極端な政治思想・排他的な民族主義を持たない人たち（協調路線・生活優先・平和主義）』なので、『お前は○○人だから俺たちのことを嫌って敵視しているんだろう、俺たちの国から尊厳や主権を奪おうとしているんだろう』と言われて攻撃・罵倒されても、自分の生き方・考え方・思想とは直接関係しないことなので対応のしようがない（国家に影響力も持たず特別その国の人を嫌ってもいない自分を脅かされてもただ迷惑だ）という問題もある。
韓国人・中国人は『反日教育（誇張された過去の日本の悪しきイメージの教育）』を受けている影響で、確かに日本の過去の歴史を非難したり日本人の本当の性格（考え方）に不信感を抱いている人も多いのだろうが、それでも『日本の漫画・アニメ・文学作品・電化製品・芸能人・都市文化・観光地』が好きだという韓国人や中国人も多くいて、現代日本や日本人を全否定している人ばかりではないことは確かである。本当に日本が大嫌いで日本人の顔さえ見たくない人ばかりだったら、わざわざ日本に観光旅行に来て買い物をしたり、日本の音楽やサブカルチャーを理解して楽しんだりする中国人・韓国人もいないはずであり、日本人の物事の考え方に一切共感できないのであれば、村上春樹の小説や人気アニメが中国語で翻訳されても売れないはずだし、みんなが内容をつまらないと感じて評価されないはずである。
日本人の中にも民族主義を重視せずに相互理解の協調路線を促進したいリベラリストは沢山いるように、韓国人や中国人の中にも割合は少なくてもそうしたリベラリストはいるはずだし、相互の芸能人や消費文明に熱を上げるようなミーハーな国民の層（政治思想や国家間対立などに深く関わらずに毎日を地道に楽しく生活できればそれで良いという層）だって韓国・中国でもかなり分厚いのである。
いくら偏向した愛国教育・歴史教育を受けているとしても、完全な鎖国をしているわけではない以上、『国家からの押し付けではない自分独自のリベラルな相互尊重の世界観・思想性』を確立している中国・韓国の個人も多くいるはずで、同調圧力で適当に合わせている人の中にも、本音では『大して関心がないしあまり激しいことはやらないで欲しい・日本人の中にも理解できる主張をしている人はいる・自国だけがすべて正しいはずがないしそこまで何から何まで反日でなくても良い・政府のやり方も硬直的すぎる』というような人もいるだろう。
『過激で均質的なウェブ情報（まとめサイト）』だけを繰り返し浴びるように目にし続ければ、初めに自分の思想や世界観の基盤がなくて日常（現在の社会・国・生活）に不満を抱いている人は、『嫌韓・嫌中の前提』が変更不可能なアイデンティティとして取り込まれやすいと思うが、マスメディアの全ての情報を疑っているのに、殴り書きのように書いてある個人の攻撃的・侮蔑的なコメントを鵜呑みにするというのは矛盾ではある。
また『嫌韓・嫌中の前提』があまりに絶対的なものに成り過ぎると、『ただ韓国のタレント・作品・端末が好き（使っている）といっているだけの特別な政治的関心のない一般人』の人格まで反射的に否定したり、『ただ自分なりの協調的な東アジア外交や中韓との関係改善の必要を語っているだけの人』に対してお前は日本を裏切って中韓に味方する非国民・売国奴なのかといった罵倒をしたりといった『自分たちの思想に同調しない他者・集団』そのものの否定・排除に走ってしまうことがある。
ニュースになっている在日韓国・朝鮮人の排斥を主張するデモを批判したフリーライターの女性（４１）を脅した会社員の男（２８）のケースでも、『自分の政治思想（政治活動）・民族観に反対するような意見・言論』はすべて許せないという感情が高まっており、自由社会の原理原則である『言論の自由』そのものを否定して、自分たちの理想とする民族主義的な世界観（韓国人・朝鮮人を完全に追い出したい願望）を非難する女性を殺害したいというほどに強い憎悪感情（テロ肯定的な思想）に染まっているのは心配である。
どんな政治思想や世界観を持とうがそれは本人の自由であるが、『私はあなたの意見には反対だが、あなたがその主張をする権利そのものは侵さない（守る）』というヴォルテールの啓蒙主義的な格言に倣った態度は維持すべきだし、デモをするにしても『政治的・自意識的に無関係な一般人（個人として敵対的思想・行動を取っているわけではない人たち）』の安全や尊厳を脅かすような行動は控えるべきだと思う。
当然、これらのことは日本・日本人だけに限ったものではなく、中国・韓国・北朝鮮も含めてすべての国・民族に帰属する人たちにも当てはまることであるし、『怨恨・憎悪・悪意・思想統制（行動統制）』といったものを煽り立てるような世界観や人間観というのは基本的には自分にとっても他者にとっても国にとっても副作用（何らかの騒擾事件・殺傷・差別や圧迫・紛争などにつながる恐れ）が強すぎるものである。