映画『真夏の方程式』(ガリレオ劇場版)の感想

総合評価 74点/100点

透明度の高い海と豊かな生態系が残る『玻璃ヶ浦』で、大規模な『海底鉱物資源(レアアース)の開発計画が持ち上がり、環境破壊(生態系の変化)を懸念して開発に反対する住民と経済波及効果に期待して開発に賛成する住民の対立が生まれていた。この海底資源開発が海洋環境に及ぼす影響について、中立的な立場から説明するアドバイザーとして、帝都大学物理学准教授の湯川学(福山雅治)が招聘されているが、玻璃ヶ浦に向かう途中で柄崎恭平(山﨑光)という少年と知り合う。

子供嫌いで子供と話すと蕁麻疹がでる特異体質の湯川だったが、自分のことを『博士』と呼んで懐いてくる恭平に対してはなぜか蕁麻疹が出ることがなく、『科学の魅力・価値』を理解しようとしない恭平に、科学的な思考・方法の面白さを実体験を通じて教えようとする。湯川学が宿泊する『緑岩荘』を経営する川畑重治・節子夫妻(前田吟・風吹ジュン)の甥っ子が柄崎恭平である。

湯川と恭平は必然的に一緒に過ごす時間が長くなり、いつの間にか『玻璃ヶ浦の沖合の海の中を見てみたい(だけどそんな遠くまで泳げないから無理だし)』という恭平に湯川が科学的に協力することになる。本作は、相棒である岸谷美砂(吉高由里)の出番はあまり多くなくて、湯川学が美しい海に面した港町で過ごす夏休み、『ペットボトル製のロケット発射実験』をしたりする湯川と子供(恭平)との触れ合いが描かれ、そこに『川畑家の重大な秘密』が関わる事件の解明が重なるという構想になっている。

ゼネコンが開催した『海底開発の説明会』に出席したラディカルな環境保護活動家の川畑成実(杏)は、企業や専門家の話には一切耳を傾けることはなく、『玻璃ヶ浦の海や自然を現状のまま残せなくなる海底開発には絶対に反対する・どんな開発方法を用いても必ず環境は変化して破壊される』という意見をひたすら主張し続けている。

湯川学はそんな成実に対して、『海底探査の段階では非破壊検査が可能であること・海底開発には確かにメリットとデメリットがあるがどちらを取るかは住民の選択であること』を静かな口調で伝えるが、成実には環境保護以外にも現在の玻璃ヶ浦の海の姿を何としても守りたい理由があった。成実は中学生の頃に玻璃ヶ浦に引っ越してきたのだが、何十年間もこの地方に住んでいる人よりも必死に玻璃ヶ浦の海の環境保護を訴え、10年以上にわたってこの地域の海の環境や写真をテーマにしたブログをコツコツと更新し続け、自らを『玻璃ヶ浦の番人』だと自称していた。

翌朝、『緑岩荘』に宿泊していた元捜査一課の刑事・塚原正次が堤防下の岩場に転落した変死体となって発見される。刑事時代の塚原は、16年前に元ホステスだった三宅伸子 (西田尚美)を金銭トラブルから殺害したと自供した仙波英俊(白竜)を逮捕したのだが、退職後もこの事件の真相に疑念と自責を抱き続けていた。その事件の真相確認のために、三宅伸子・仙波英俊と関係があった川畑夫妻が経営する『緑岩荘』を訪れていたのだが、川畑節子は頑なに仙波という男など知らないと言って、一切の話を聞くことを拒絶するのだった。

三宅伸子殺人事件の真実が明らかになることは、川畑一家の生活・関係が崩壊することに直結していただけでなく、自らの人生を投げ打って守ろうとしてくれた男の善意を無に帰してしまう恐れがあったからである。冒頭に映される雪が降っている歩道橋上で三宅伸子が刺殺される現場が伏線となっているが、事件の大枠のストーリー自体は中盤までには分かる構成だ。塚原が遺体となって発見された当初は酔っ払っての転落という事故死で処理されかけたが、その後の検視で『転落による死亡』ではなく『死亡後の転落』であることが明らかになり、事故死から傷害致死・殺人事件に切り替えられて捜査が始まる。

警視庁から派遣されてきた岸谷美砂が懸命に捜査を続ける中、いち早く事件の犯人と殺人の方法に気づいた湯川は『ある人物の人生が捻じ曲げられること』を防ぐために、最善の事件の落としどころを探っていく。手作りのロケットを何度も発射する実験を繰り返し、そのロケットを使って『リアルタイムの海中の映像(玻璃ヶ浦の海の中)』を恭平に見せてあげた湯川は、自分と恭平が過ごした夏休みの思い出の全てを最悪のものにはしたくなかったのかもしれない。映画ならではの派手な映像や劇的な展開などはないが、素朴な小学校の少年の疑問や好奇心、心の傷つきと向き合う子供嫌いの湯川学の『意外な一面』を知らせるサイドストーリー的な作品になっている。