ウィリアム王子とキャサリン妃の間に第一子(長男)が誕生。現代における王室の存在意義。

ウィリアムの父親のチャールズ王太子と故ダイアナ・スペンサーとの結婚式・出産・離婚も凄いメディアスクラムだったが、チャールズの話題性を引き立てていたダイアナ元妃がパリで不審な事故死をした時もパパラッチの騒ぎ様は異常であった。

キャサリン妃とウィリアム王子はピザで出産祝い「これまでにない最高の幸せ」

スキャンダルが原則としてない日本の皇室と比較すると、英国王室は庶民以上に何でもありの『オープンな王室』になっているが、ウィリアム王子の国民的人気はダイアナへの不誠実な対応が多かった父チャールズよりも高いとも言われる。

EUの大国であるドイツとフランス、イタリアは君主制(王政・帝政)を完全に廃止してしまったが、イギリスだけは未だにウィンザー朝の立憲君主制を維持しており、イギリス国民の王室の存続を願う声も強いものがある。

天皇(朝廷・神道の主宰者)と征夷大将軍(武家の棟梁)という『二重権力構造』を持っていた近世までの日本は特殊だったが、天皇主権(国民の臣民化)を憲法に明記した明治以降の国体確立で、敗戦時に天皇制は『廃絶の危機(戦争犯罪の責任追及による断絶の危機)』に瀕した。

国王・天皇が三権と軍を掌握する最高権力者になるということは、『失政・敗戦による責任』を一身に受けるということである。日本の天皇はGHQの占領統治方針(天皇崇拝者によるゲリラ戦回避)によって責任を政治的に回避できたが、大東亜戦争の敗北は天皇制そのものが国体思想(日本の国家の本質・価値を天皇の系譜の存続であるとしてそれを守るためには全てを擲つべきとする思想)と共に廃止されてもおかしくない転換点ではあった。

イギリスは1688~1689年の『名誉革命』の後にウィリアム3世が『権利の章典』を承認し、国王の実質的な政治権力を放棄して、議会を国政の唯一の立法機関(最高意思決定機関)として認めた。『君臨すれども統治せず』の立憲君主制の原則を確立したことで、失政・敗戦による王政廃止のリスクは大幅に軽減される効果をもたらした。

天皇制にせよEU諸国の王室にせよ、現代でその延命を可能にしているのは、『政治権力の放棄・天皇(国王)の象徴化・国民からの支持と愛着』であり、直接的な権力者として国民を統治して政治を動かそうとした前近代的な国王・皇帝の多くは、失政・敗戦・市民革命・侵略によってその地位を追われたり処刑されたりした。

国民が国王によって直接的に支配・命令されることがなくなった現代の立憲君主国では、暴君・暗君の出現を恐れる必要もなくなり、国民に愛されている国王(天皇)であればその地位を維持できる。だが、国王(天皇)本人が義務感・宿命の受容以外の理由(気持ち)で、『伝統的な身分・血統の永続性』を願っているかどうかは微妙になってきているとも思う。

近代以前の専制主義国家や封建主義国家であれば、実際の権力者である国王・諸侯の家系(血統)に生まれることは権力面でも財力面でも幸せ、贅沢につながる可能性も高かったが、現代の英国王室や日本の皇室の人々は『統治者・権威者』というよりは、24時間体制で自分の人生や言動をメディア(国民)に見られている『不自由で窮屈な立場(国民の歴史的アイデンティティを強化する役割に終身で従事する存在)』に過ぎなくなった。

近代以前の『自由で贅沢な生活を楽しむ王族(貴族)』と『不自由で貧しい生活に喘ぐ庶民』の図式は崩壊して、むしろ顔・名前が知られていて社会的な期待と責任を一身に受けている王族・皇族のほうが、生まれながらに衆人から監視されているような不自由な人生(国民からの一方的な期待・イメージに応え続ける人生)を義務付けられてしまっているからである。

大半の人が王族や皇族になれるチャンスがあってもなりたいとは思わない時代が現代であり、竹田恒泰氏のように自ら皇族の一員に復帰したいという奇特な人もいることはいるのだが、日本の雅子妃殿下にしても英国のダイアナ元妃にしても、外部から王族(皇族)の一員になった人がそれまでよりも幸せそうな人生を送っているイメージというのはやはり弱い。

ウィリアム王子とキャサリン妃の間に生まれた子供も、生まれながらに課された公人としての人生の義務は重いものがあるが、マスメディアの報道や大衆の関心に圧倒されずに楽しい思い出が多く残る子供時代を元気に過ごしていって欲しい。

『権力で直接に支配はされたくないが、歴史的権威を仰げる偶像・象徴は残っていて欲しい』という現代の庶民のわがままな欲望(歴史的・民族的な自己アイデンティティの拠り所を求める欲望)が国王や天皇の持続性を支え続けている。

フランスやイタリアなど共和制に移行した国家でも、そういった伝統的な王族の権威への憧れのような感情は残っているが、それは人類に概ね共通する『上位の存在者によって自分が見守られている感覚を得たいパターナリズムの心情』があるからだろう。

イギリスではウィリアム王子の第一子誕生のニュースが加熱し過ぎている状態にあり、ガーディアン紙ではこの『王族の出産に関するニュース』をもう見飽きたので見たくないというユーザーのために、“Republican(共和主義者)”という出産報道だけ消せるボタンをユーモアを兼ねて設置したという。熱烈な王室支持者には不敬・不吉に見えそうな気もするが、英国人の王室に対する感情は日本以上に砕けたもの、大衆的なものになっている面もあるだろう。