明日10月17日までに、アメリカ合衆国の連邦債務の上限額の引き上げ法案が通らなければ、アメリカは国債償還(国債利回り)の支払い能力が不足していると見なされて、部分的なデフォルトが起こる。
アメリカが債務を支払えないというデフォルトが起これば世界経済は非常に大きな打撃を被り、米国債を大量保有している日本と中国の財政状況・株式市場にも深刻な損失をもたらす。だが、現在の状況は『アメリカの政局(民主党と共和党のチキンレース的な駆け引き)』であって、『アメリカの潜在的な支払い能力の限界』ではないのでこの危機は回避されるだろう。
アメリカが完全に支払い能力を失ったとなれば(フル・デフォルトと呼ばれる米国債のジャンク化が起これば)、日本株の下落と円高の急騰だけではなく、インフレが更に進んで物価の急上昇が起こるため、アベノミクスの楽観的予測は短期間で瓦解して、恐らく1年以内に国民生活が相当に行き詰まって政権は倒れることになる。下手をすれば、安倍政権が決断した消費税増税時期も見送られる可能性があるほどに、重要な世界経済の転機にもなるわけだが。
アメリカの行っている危険な国内政争のあり方、財政・国民生活(社会保障)と世界経済を人質にとった恒例の駆け引きはいつまで続くのだろうか。しかし、世界最大の資本主義国家であるアメリカでさえ、財政問題と経済成長率、社会保障の問題を解決できないほどの『構造的な閉塞感』があり、どうしようもならないくらいに『国内の経済格差』が拡大していることを考えると、『今の財政危機』を乗り切っても遠からず第二波、第三波の財政・経済の危機が連続的に降りかかってくると予測される。
だがアメリカは基軸通貨ドルの信認の大元であると同時に、世界秩序の大枠を規定するだけの発言力・軍事力・地下資源を担保している国であるため、議会の政治決定次第で『債務上限』を事実上殆ど制限なく引き上げられるという荒業が使える。
『合衆国の潜在的な支払い能力』が行き詰まって国債を発行できなくなるという事態はそう簡単には訪れないはずだが、アメリカは一般に思われている以上に『大統領の権限』が強くはないし、EU諸国の首脳と比較しても強くないという点が『政局の繰り返される混乱』の原因にはなっている。
今回のデフォルト騒動の発端も、『オバマケア』と呼ばれる国民全員が加入できる公的医療保険の財政負担(貧困層の個人負担含め)に、自己責任型の新自由主義を唱導するおなじみの『ティーパーティー(茶会)』が公的医療保険は財政を破壊すると大声で反対して、それに共和党支持者や保険よりも現金が欲しい貧困層が加わったことでオバマケアの実現が足踏みさせられたところにあった。
公的医療保険はいったん制度を確立して運用し始めると、それを途中で廃止することが原理的・人道的にできない仕組みであるため、保守派や市場主義者は『保険制度のフリーライダー(安価な負担と高額の給付によるバランスの崩れ)』を警戒したり『累進課税的な富裕層の高負担』を嫌うわけだが、お金がないために最低限の医療も受けられない現状を、先進国であるアメリカが放置し続けることが倫理的・制度的に適切なのかという争点は過去から長く議論され続けてきている。
その議論の結果として、オバマケアを導入すると公約していたバラク・オバマ大統領が再任されて、政権与党も僅差ではあっても民主党が占めているのだから、共和党やティーパーティーがオバマケアを徹底的に潰そうとして議会を混乱させたり政府機関を閉鎖させたりするのはどうなのかと思う部分もあるが、『福祉国家にはならない先進国』として異色の制度運用を続けてきた自己責任型の市場主義(医療は公共・政府の問題ではなく個人・民間保険の問題だとする考え方が優勢だった)の国アメリカがどう変わるのかの分岐点でもあるのだろう。