日本の医療費と高齢化社会のコスト、難病(特定疾患)支援のあり方

日本の医療費は『高齢化社会・医療技術の進歩・慢性疾患の増加・軽症受診者の多さ』などの要因によって、今後も継続的に上がり続けると予測される。現時点の医療費総額(公費負担はそのうち14兆8079億円,38.4%)は約38.5兆円であり、65歳以上の医療費が21兆4497億円で全体の55.6%、。75歳以上に絞ると13兆1226億円で34.0%であり、高齢化社会では高齢者の医療費が全体の過半を占める。

今年から来年にかけての10%への消費税増税は、高齢化社会に耐え得る社会保障制度の財源強化のためというのが表の理由であるが、10%に増税しても増収分の約12~13兆円は補正予算・経済対策(企業支援策)・国土強靭化に使われるので、医療・介護・年金の社会保障負担増に『現行制度』のまま持ちこたえられる見通しは、10%の消費増税でも依然立たない。

先進国においては医療は誰もが必要な時に利用できる社会インフラであるべきで、日本的な『国民皆保険制度』もアメリカなど一部の市場主義国を除いては、先進国にあったほうが良いとされる保険制度であったが、高齢化率が20~25%を超えてくる『超高齢化社会の医療費』では若年層と高齢層の医療負担格差(保険の負担と受給のバランス)が著しく崩れてくる問題が深刻化している。

アメリカのオバマケアに反対する人たちも、『毎月の保険料負担』が重く感じるというだけではなく、保険料を負担してもそれに見合う受給が数十年間は受けられないと予測できる若年層(低所得層・失業層)が中心であり、課税所得の10%以上を負担するような公的負担は、(現時点で若くて特別な持病がない人にとっては)安心感以上に重税感を感じさせるものになる。

いつ怪我をしたり病気になるか分からないというリスクに保険は備えられるが、毎月の生活費にそれほどの余裕がない層にとっては、所得の10%前後にもなる強制的な負担増がやはりデメリットに感じられやすく、財政難の現状を考えれば『自分が一番医療が必要な年代』になると負担が上がって給付が下がるリスク(それまでの保険費の払い損の感覚)もある。

日本でも保険料未納で『資格証明証(これ自体は3割負担で済む保険証として機能しない)』を発行されて、実質的に無保険状態に陥っている人が、国保では20%近くもいると言われており、『国民皆保険』のシステムは低所得層・無職者層の末端から既に壊れかけているという見方も為されている。

消費税増税による医療制度充実の一貫として、厚生労働省は特定疾患の難病助成制度の事業費を500億円積みまして、助成対象として認定する難病(特定疾患)の種類を増やし助成範囲を広めるのだという。助成範囲を広める代わりに、それぞれの難病患者・家族に所得に応じた『薄い一定の負担増』をお願いするという趣旨を厚労省は遠そうとしたが、難病患者の会などの強い反対意見を受けて、現高水準の負担率を維持することに同意した。

難病助成の対象になるかどうかは、『疾患の難治度(治療の難しさ)・回復困難性・症状の重症度(自立困難性)』だけではなく、『患者数の少なさ・疾患の希少性』によって決められるので、ただ治りにくくて継続的に医療費がかかる慢性疾患の場合には、症状が重篤であっても助成制度の対象からは外されることが多い。

助成対象となった疾患であれば、月額2万円(年間24万円)が自己負担の上限額となり、安心して長期療養を受けやすい仕組みになっているが、助成対象でない場合には所得に応じて比較的高額の上限額(高額療養費)が設定されており、本人が無職や長期の通院・入院であることも多い事情を考えれば、家計に対する医療費負担は重くはなる。

治療研究促進や医療費節約のための『患者数の少なさ』だけに囚われず、症状の重症度や自立困難の度合いに応じた助成制度が望ましいと思うが、日本の医療制度や医療費高騰の問題点として『本当に医療が必要な患者か否かの区別』が曖昧になりやすく、居場所のない患者の社会的入院やクリニックに集まる人たちのサロン的用途、軽症者の頻繁な診療などがある。

軽症者・心理的要因による通院頻度の多さを改善したり(病院以外のコミュニティや話し場・集まる場の形成を進めたり)、買い薬によるセルフメディケーションを促進したりすることによって、症状の重症度の高い難病・慢性疾患の患者により多くのリソースを配分することができる可能性もあるが、今後、医療費が増加する情勢の中で『保険負担を多くすべき疾患・状態とそうでない疾患・状態の区別』が進むのではないかと見られる。