“子守り(子供を預かること)”を仕事内容にする個人のベビーシッターには、法規制や業務独占資格などはないが、通常は十分な信用度が担保されない相手や機関、場所に自分の子供を預けること自体が考えにくく、どうして若い男性が単独でやっていて施設的な拠点もないベビーシッターを無条件に信用したのかは不可思議である。
仮にそういった男性個人が請け負っているベビーシッターに預ける場合でも、最低限、どういった場所に子供が預けられるのかどんな人物が実際の面倒を見るのか、他の子供たちもきちんと世話をされているかなど、自分でその場所・部屋にまで実際に出向いてチェックすることくらいはすべきである。
住所が明確な保育所や幼稚園のような施設・組織としての拠点(基盤)がないのだから、『個人と個人の信頼関係以上のもの』がそこにはなく、であればこそ『実際に世話をしてくれる相手』には対面して話してみたり預ける場所を観察したりして、その人間性や信用度(責任感)、託児環境の質を推し量るべきだ。
『子供を受け取る人』と『子供の面倒を見る人』が別であるというのもおかしな話だが、預けられる場所とは別の駅で子供を預けてしまうというやり取りもリスクが高いし、そもそも『子供がどこにいるかも分からないような預け方』はいざという時に迅速な対応ができず、親としては不安なはずである。
『今すぐに数日間、子供を預かって欲しい』というニーズに対応してくれる託児所が少なかったり価格が高かったりする問題、子育てを手伝ってくれる親族関係に恵まれていないという環境も関係しているだろうが、多少割高な料金を支払うにしても複数人体制で運営していて企業としての実体・実績もあるようなベビーシッターのほうが安全性は高いだろう。
自分できちんと子供が生活をすることになるその場所にまで出向いてチェックし、実際に世話をして安全管理をしてくれる相手と会って話をしておくのは大前提であるが、受け取りも子守りの実務も(恐らく長期の子育て経験がないであろう)若年の男性だけというのも何となく不安に感じるポイントである。それであれば、自分自身の子育てが終わっているようなベテランママさんが複数でやっているようなベビーシッターのほうが、経験論的・直感的に安全性が高いように思われる。
日本では個人のベビーシッターの利用率が極めて低いことなどもあり、『ベビーシッターを選ぶ基準やレイティング』のようなものが殆ど確立されていないこともあるが、そもそも『個人がする子守りの市場の需要』がかなり小さいか信用されていないか(アメリカなどでも個人のするバイト的なベビーシッターの虐待事件は少なからずある)で、単独のビジネスとして成功する余地は小さい。
企業が人を固定給で雇ってまでするビジネスとしてはベビーシッター業は成功しづらいため、今回の容疑者のように『小遣い稼ぎとしてのベビーシッター』がでてくるニッチが生じる。
欧米では小中学生くらいの子供がベビーシッターのアルバイトをすることもあるので(それは自分の弟・妹や知り合いの子供を預かる場合が大半だが)、お客からの依頼があった時だけ小遣い稼ぎとしてベビーシッターをするにしても、『依頼を受けた時間帯』は他の仕事などをせずに(ずっと子供につきそう形を維持して)、子供を預かって心身の健康を管理する『業務専念義務』が生じる。
また、必要品の買い出しなどの手間もあるので、歩けない乳児がいるケースだと、複数日にわたる長期のベビーシッター業を、一人だけで安全に遂行することはよほど子育てに手馴れていないとなかなか困難のようにも思われる。この容疑者は逮捕時には外をうろうろしていたなど、ベビーシッターを専業でやっていない可能性があり、ただ子供を家に置いているだけで必要な世話(食事・風呂・おむつ替え・遊び相手など)や室内の環境管理をしていなかったのではないかとも疑われる。
この事件で、『2歳児が死亡して、8ヶ月児が衰弱していた経緯・原因』は不明であるが、『意図的な虐待・暴力』か『故意のネグレクト・部屋にいない不在時間(大人が付き添っていない見ていない時間)』があったのであれば、傷害致死あるいは保護責任者遺棄致死の事件性がでてくる。身体にあったという8ヶ月の赤ちゃんの痣が、故意の暴力によってできたものなのか否かなどの検証が必要になるだろう。
本来、こういったベビーシッター業をアルバイトであってもしようとするのであれば、預かり時点で『発病時・容態急変時の緊急対応を含めた契約書(予測不能な突然死・発作などにおける免責事項)』を取り交わしておかなければならず、『子供の死亡・傷病を補償できる業務者向けの民間保険』などにも加入しておくべきだ。きちんと必要な世話や監護をしていても突然体調が急変した場合には、即座に救急車を呼んで保護者に連絡をし、事後は医療機関に専門的な対応を任せるしかない。
詳細な法的責任については、『目を離していた時間が長かった・救急通報が遅れた』などの理由で、何らかの訴訟を提起されたり刑事責任を追及される可能性はあるが(個人のベビーシッターにどこまで厳密な監護義務があるのか、数分でも目を離したらだめなのか、自分が寝ている時間帯の発病は免責されるのか等が問題になるが)、自分が虐待やネグレクトをしていなかった証拠を担保するのであれば、預かっている室内を24時間体制で録画しておくなどの予防措置が必要になるだろう。
意図的な暴力・育児放棄(ネグレクト)・不在時間がある場合には、民事・刑事双方の責任追及がなされることになるし、それだけ子供の生命を預かる仕事の責任は重いものであり、犯罪行為に類する行為をしていないのであれば(していてもだが)、気づいた時に子供の体調がおかしかったり健康状態に異常が生じていれば、即座に救急医療と警察に通報してから以後の対応を仰ぐべきである。
一昔前であれば、ご近所や親しい知人が子供を無償で預かる(お互いの子供を預け合って助け合う関係にある)ということもあったが、現在ではそういった親密な付き合いをしている人は少なく、原則として、自分か家族・親族以外に子供を預かってもらおうと思えば、有料の保育所かベビーシッターかに預けることになる。
また、親しい付き合いのある相手の子供であっても、自分が預かっている時に怪我をしたり事故・病気になったりしたら何らかの責任問題が生じるかもしれないという不安もあって、昔と比べると気軽に他人の子供を預かることが難しくなっている事情もあるが、本来は普段からその人となり(人間性・性格や考え方)を良く知っていて子供もなついているような人のほうが、子供を預ける安心感・信用性は高いとは言える。