暴力団排除のために検挙された暴力団構成員の氏名を、警察のウェブサイトで一週間にわたり公表しているということだが、一般企業が暴力団のフロント企業や関連団体の構成員との取引を回避するための参考情報の一つ(名刺レベルならいくらでも架空企業・偽名を用いていそうだが)にはなるだろう。
暴力団関連の凶悪犯罪のメディア報道で疑問に思うことの一つは、殺人・強盗などの凶悪事件であっても、一般人の容疑者のような『家族や周辺へのインタビュー報道・過去の学校生活や人間関係を掘り返すような執拗な報道』が全くといっていいほどなく、ただヤクザの構成員ということしか分からず、その人の人となりやそれまでの人生の履歴、若い構成員でも同級生の持っていた印象などが全く伝わってこないことだ。
反社会的勢力の構成員についてインタビューに応じたりあれこれ詳しい話をすれば後で報復されるかもしれないという不安や、そもそも詳しく話を聞けるような家族が崩壊して久しかったり(親自身も身を持ち崩していたり経済的に破綻していたり)、一般社会に親しい人間関係が殆どなくなっているという理由もあるかもしれない。
しかし、家族親族などであれば自身の子供が大きく道を踏み外して、反社会的勢力や犯罪行為に加担するようになった(他者に危害や迷惑を及ぼす行為に走るようになった)成育歴における一定の責任もあるわけで、どういった段階や事由、契機によって暴力団に加入するような生き方を選択していったのか、なぜ家族や周囲が抑制できなかったのかといった辺りの話は、非行・犯罪に走る青少年を抱える親の接し方の参考にもなるなど、社会的にも有意義な情報となる可能性もある。
暴力団に限らないが同じ殺人事件でも、恋愛・ストーカー・結婚生活などプライベートのこじれから殺人を行った者や無差別殺傷事件を行った者は、過去から現在までのプライバシーや生活状況、人間関係がこれでもかというほどにマスメディアから根こそぎ掘り返されて執拗な報道が為されるが、単純なカネ目的の強盗殺人や振り込め詐欺グループのリーダーなどでは、容疑者個人についての取材報道はほとんど過熱せず、どういった人物でどのような生活・関係にあったのかの具体像は茫洋としていて不明である。
暴力団であっても小学校や中学校には通っていただろうし、その時々の人間関係や家庭生活(親子関係)、教師の指導とそれへの反発、人生の転機、初めての凶悪犯罪や暴力行為などはあったはずである。
近代的な暴力団はその起源において、『格差社会に喘ぐ港湾・炭鉱・土木などの荒っぽい労働者の統括取締や互助組合』から発しており、経済社会の格差問題や労働問題との関わりも深く、『どこにも行き場所のないドロップアウトした青少年たち』を非合法なやり方ではあるが、吸収して働き場所を与えてきたという側面もある。
どういった生活歴や交友関係、生き方、価値観が元になって、不良・非行を飛び越えて反社会的行為を生業とする暴力団に加入していったのかなどを伝えることは、『未来の暴力団縮減・(暴力団との接点がまだない)非行少年の人生の方向転換・親子関係や指導方法の見直し・悪友との交際や好ましくない生活環境の改善・崩壊家庭の子供たちの支援』にも貢献する報道の一つの使命でもあり、単純な構成員の氏名の公表よりも注力すべきことかもしれない。