ISIS・ISILの侵攻によるイラク内戦の激化:イスラム原理主義と独裁政治を牽制する欧米外交の矛盾点

イラクがイスラム国であり、国民の一定の割合が『欧米的な自由主義・男女同権社会・人権思想(=イスラムの伝統や慣習を解体する個人の平等な尊重)の反対者』である以上、反欧米・反民主化の勢力は尽きない。

緊迫のイラク情勢 いったい何が起こっているのか?

アメリカの対イラク・対シリアの外交の限界は、目先の軍事目標(独裁政権の転覆・イスラム過激派の抑圧)の達成のために、『価値観・信念の整合性がまるでない武装勢力』と暫時的に手を結んだり支援せざるを得ないということにある。結果、米国が支援していたフセインが人権抑圧の独裁政権を築いたような矛盾が生まれる。

アメリカは民主主義の価値を重視して、『選挙を伴わない独裁政権・軍政』を嫌って非難するが、中東では『独裁政権(軍政)がイスラム原理主義を押さえ込んでいる図式』が多く見られ、米国は『親米政権+世俗主義の体制+安定的な統治(部族政治の秩序維持)』であれば独裁政権でもお目こぼしをしてきた。

米国のダブルスタンダードは『自由主義(人権思想)・民主主義』を普遍的な価値として、『反自由主義のイスラム原理主義(過激派)』や『非民主主義の独裁政権』を強く非難しつつも、どちらかマシと思える側を支援せざるを得ない事にある。なぜなら、イスラム国には自由主義の政党・権力者など初めからいないし人気がない。

イスラムと部族政治が生活規範・人生の指針として根付いている中東には、欧米的な価値観とフィットする『個人の人権を尊重する体制・慣習』はないため、潜在的に『反米のメンタリティ』が常にある。

ISISやISILのような過激派は『アサド政権打倒の協力』で、米国からテロリストではなく暫時的な味方として扱われたが、ISIS(イラクとシリアのイスラム国家)やISIL(イラクとレバノンのイスラム国家)は『スンニ派中心の神聖政治(政教一致)の政権樹立』のためにアサド政権を攻撃していただけで、親米勢力であるはずもなく、『米国の求める非イスラムの民主的な新政権樹立』には真っ向から反対である。

『イラクとシリア(イラクとレバノン)のイスラム国』は反欧米的な民族自決・イスラム回帰の象徴だが、イスラム圏の民主化・世俗化の難しさは、エジプト革命のように選挙を行っても、国民自らがムスリム同胞団のような『宗教政治』を支持したり、選挙を経て生まれた政権でも『軍事力』で転覆させてしまう所にある。欧米は中東では『価値観の共通性』が弱いので、どうしても『敵の敵は味方』の場当たり的な外交しかできない。

『世俗政治・自由民主主義・男女同権・虐殺や弾圧の禁止』という先進国にとっての普遍的なコードは、どうしてもイスラムという宗教の伝統的な規範・慣習・信仰・男女観と衝突する要素を含むが、ナイジェリアのボコ・ハラム(反西欧の教育)のように『女性の教育』に反対することで意識の変化・個人としての自覚を阻む過激派も多い。