父親か母親が『血縁関係のない子供(連れ子)』を虐待すると、実の子供ではないから子供のちょっとした抵抗やイタズラ、わがままに我慢できずに暴力を振るってしまいやすいという先入観を持たれることが多い。3歳の女児を押して転倒させ、頭部損傷を負わせて殺害したと見られるこの事件でも、子供が『夫側の連れ子』だったことをネガティブな要因と見なす意見は少なくない。
その先入観には、連れ子は虐待されやすいと思っている人自身の『血縁関係への強いこだわり(自分の遺伝子を引き継ぐ子供じゃないと嫌)』や『相手と別の異性(前夫・前妻)との間の子供への嫉妬』などが反映されやすい。
また、子育てをしている女性(男性)は、子育てを最優先にした人生設計や行動の判断を行うべきであり、そのためには子供が小さいうちはできるだけ(よほど子育てに積極的な協力姿勢を持つ相手だと確信できない限りは)『別の男女との恋愛関係』は持たないほうが良いといった日本的な禁欲主義の道徳観も影響している。特に母親に対しては、『女性としての自意識・欲求』を離婚後に持つことが世間からタブー視されやすく、子供より異性を優先するのではないかとの野次馬的な勘ぐりを受けやすい。
だが、実際の日本における虐待統計では、法律婚(離婚していない子育て中の実親である夫婦)の多さもあって、虐待の加害者の大半が『実母(全体件数の約60%)・実父(全体件数の約25%)』であることに注意が必要である。
連れ子は虐待されやすいという先入観はあるが、全体の虐待件数では『実父以外の父:約7%』『実母以外の母:約1.5%』であり、特に『実母(産みの親)ではない母親』が再婚して連れ子を虐待する割合はかなり低いと言える。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/gyousei/09/kekka8.html
http://www.thinkkids.jp/genjou/consultation
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:eFEvUhIJ-8AJ:www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/seminar/dl/07-02_0002.pdf+&cd=1&hl=ja&ct=clnk&gl=jp&client=firefox-a
血縁のない子供を育てる場合に、子育てに無関心になりやすく子供に暴力を振るいやすいのは、女性よりも男性であることが多いが、これは『子供との愛情の奪い合い』が露骨になってしまう男性の割合が、圧倒的に女性よりも多いからと推測される。どちらかに初めから子供がいる場合には、『二人だけの恋愛の時間』というのは基本的に長く持つことはできず、二人だけでデートしたり旅行をしたりといった楽しむためだけの付き合いをすることはまずできない。
お互いに子供がいたり離婚経験があったりするようなカップルであれば『相手の事情・負担』に共感しやすいが、『初婚の男性(女としての相手を強く求めている男性)』の場合には恋人・男としての役割をすっ飛ばして、父親・世帯主としての役割を求められるため、(初めはそのくらい耐えられると思っていたとしても)その役割規範に上手く適応できない人も出てきやすいだろう。
もちろん、日本では『子供がいる異性と結婚する男女(連れ子を育てている父・母)の絶対数』がかなり小さいというバイアスがかかっているので、厳密には虐待件数の大小のみで『実母・実父のほうが血縁のない父母よりも虐待しやすい』とまでは言えない。
実父よりも実母のほうが虐待件数は圧倒的に多いが、これは単純に『子供と接している時間の差・実際に世話や養育をしている時間の差』に基づくものであり、子供と接する時間が短くて育児を母親にほとんど任せていれば、実父は子供のストレスや虐待をする接触時間そのものが余りないということになる。
乳幼児と密室的な環境で二人だけで向き合う時間は、実母が圧倒的に長くそのストレスや拘束感・義務感(責任感)も強くなるが、虐待のリスク要因となる『子供と密室的環境で向き合う(思いつめる)時間の長さ』を軽視することはできない。
子育てを手伝ってくれる、子供と離れる時間を作ってくれる(悩んでいる時や疲れている時に相談できる)ような『相性の良い両親・義両親』が身近に住んでいるか否かというのも、虐待リスクの大小とかなり強い相関がある。
虐待死・乳児遺棄などを起こした加害者の多くは、実家・両親とのつながりが殆ど無かったり、父親が責任放棄をしていたり、支持的な人間関係から孤立してすべてを自分一人でやらなければならないと思い込んでいるケース(孤立・貧困・能力不足・メンタル悪化に加えて生活習慣自体が崩れているケースも)が多い。
『虐待死亡事件に占める連れ子の割合』については統計データを見つけられなかったが、虐待死の件数は近年30~50人の規模で推移している。同じ子殺しの事件でも、親が経済苦などで子供を殺して自分も自殺する(自殺未遂する)『心中事件』や生まれたばかりの赤ちゃんを遺棄・殺害する『嬰児殺人・保護責任者遺棄致死事件』は含まれていないので、それも含めれば年間概ね80~100人程度の規模になっているようだ。
以下の産経新聞の記事では、子供が死亡した虐待事件に占める割合でも実母が最も多いとしているが、『実親(実母)が育てている子供の数が多い・(保育園に預けていなければ)子供と毎日ほぼ24時間一緒にいなければならない・子育ての負担とストレスが最も大きい』ことを考えれば、実母の割合が高いのは自然ななりゆきである。
死亡するほどの激しい虐待・暴力は、実親よりも血縁のない親のほうが振るいやすいのではないかという先入見もあるが、実親による虐待殺人事件のほうが極端に少ないということはない。
『実親が育てている子供数』と『血縁のない親が育てている子供数』の母集団の大きさが違い過ぎるという問題もあるが、『児童虐待・嬰児や子供を殺す事件の発生件数』については現代は昭和期よりもかなり少ない数にまで減っている。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130725/crm13072513450010-n1.htm
『24年度に虐待で死亡した子供は99人(同1人増)で、このうち心中、心中未遂による死亡は41人。心中を除いた58人のうち、43・1%(25人)が0歳児で、生まれた直後に死亡した子供も7人いた。実母による虐待が33人(56・9%)ともっとも多く、厚労省の専門委員会座長の才村純関西学院大教授は「望まない妊娠や10代の妊娠による出産が背景にある」としている』
http://kangaeru.s59.xrea.com/G-baby.htm
1歳未満の赤ちゃんを殺したり遺棄したりする嬰児殺人の最大の要因は『貧困・未成年(能力の低い状態)での妊娠』であるが、基本的には出産・育児をするに当たって必要な最低限の知識や収入、意識(覚悟)が不足していることに加えて、『社会的資源の不足・社会的な孤立とメンタルヘルスの悪化(将来の悲観)・両親の育児支援(子への協力的な関心・能力)の欠如』などが影響している。