総合評価 88点/100点
『眠れる森の美女(眠り姫)』をディズニー映画がアレンジして作成したファンタジー映画。自然の美が溢れる妖精界と中世風の人間界を舞台にしているが、妖精王・マレフィセントの飛翔と魔法、人間と妖精の軍隊の激しい戦闘、オーロラに掛けられた呪いの具現化など映像と音楽の調和したクオリティは素晴らしい。
“愛・共感”を覆い尽くす“強欲・支配”という人間の原罪に直面したマレフィセント(アンジェリーナ・ジョリー)は、強烈な憎悪・呪詛の感情に身を焦がし、かつて愛した男(ステファン)に最大の不幸を与えるための呪いを掛ける。
マレフィセントは妖精の森で知り合った青年のステファン(シャールト・コプリー)と親密になりやがて恋に落ちるが、ステファンは成長するに従って権力と富裕に強い執着心を見せるようになり、次第にマレフィセントと疎遠になっていった。人間の王は妖精界の自主独立を認めず、執拗に侵略のための軍勢を差し向けてくる。
だが、妖精王マレフィセントは翼による飛行能力と自然を操作できる魔法によって、人間の軍勢をことごとく打ち破り妖精界への侵攻を許さない。人間にとって『妖精界の守護者』であるマレフィセントは厄介な邪魔者であった。人間の王は、マレフィセントを討ち取った者を、次代の王にすると約束した。
国王の後継ぎになりたい野心を高ぶらせるステファンは、昔からの親愛の感情が変わっていないように見せかけてマレフィセントに接近し暗殺しようとするが、良心の呵責から殺すことまではできず、安心して自分の隣で眠り込んだマレフィセントの翼をナイフで切り取ってしまった。
高度な飛翔能力と強力な旋風を引き起こす翼を失ったマレフィセントの戦闘能力は低下してしまい、人間は妖精界への版図を拡大することに成功した。マレフィセントを討ち取ったと吹聴したステファンは遂に国王の座に上り詰めた。マレフィセントは完全に心を許してその愛情を信じていたステファンに裏切られたことで、世界の全てを呪うような魔女と化し、精霊界はその自然の明るさと美しさを失って暗黒の毒々しい瘴気に覆われるようになった。
ステファン王に娘が誕生して盛大なパーティーが催されたが、そこに招かれざる客のマレフィセントが禍々しいオーラをまとって現れる。自分の愛情と信頼を裏切ってまで国王の地位を欲したステファンに抑えきれない怒りと憎しみを向けるマレフィセントは、生まれたばかりの娘オーロラに絶対に解けない呪いを掛ける。
『オーロラが16歳の誕生日を迎えた時、糸車の針にその人差し指を刺して、死んだように眠り続ける永遠の眠りにつくことになるだろう。真実の愛のキス以外には、この呪いはいかなる方法によっても解くことができない』
究極的には、人間に真実の愛など存在しないと悟ったマレフィセントにとって、絶対に解けない呪いであった。ステファンは呪いに込められた永遠の眠りにつくという予言の成就を事前に防ぐため、国中の糸車を回収させて燃やし尽くし、娘オーロラの養育を三人の妖精に秘密裏に託す。しかし、子育ての知識も経験もない不器用な三人の妖精は満足に赤ちゃんに食事を与えることもできず、見かねたマレフィセントが陰でオーロラの養育を代理の母としてバックアップしていく。
表面的には、ステファンの子であるオーロラを憎悪して自分に近寄らないようにと言いながらも、自分が手をかけて育てていくうちにオーロラ(エル・ファニング)は次第に素直で優しい少女へと成長していき、マレフィセントの情愛や思い入れも自然に深くならざるを得なかった。
魔法で人間化させたカラスのディアヴァル(サム・ライリー)も、マレフィセントの長年の友人のような役割を果たすようになり、彼女の凍りついた心が緩やかに解けていく。ディアヴィルは魔法で更にドラゴンに変身させられて、クライマックスの戦いの場面でも活躍する。
マレフィセントを無邪気に慕ってきて、ずっと妖精界で一緒に暮らしたいと語るオーロラを見て、マレフィセントは自分が過去に掛けた呪いを後悔するようになる。何とか自力でオーロラに掛けた自分の呪いを解除しようとするのだが、絶対に解けないようにした呪文を、事後的に解除することは本人であっても不可能だった。
“真実の愛”の込められたキスによって、眠ってしまったオーロラを起こすしかないという事になるが、その有力な候補になったのは過去のマレフィセントとステファンのように、妖精の森で偶然オーロラを見かけて恋に落ちた美青年のフィリップであった。だがオーロラを愛していると告白するフィリップがキスをしても、オーロラは永遠の眠りから目覚めなかった。真実の愛はマレフィセントの想定したように人間の世界にはない幻想だったのか……(ある意味では人間同士では幻想であるという結末でもあるが)。
オーロラという美しい少女との擬似的な親子関係の経験を通して、マレフィセントがステファンの裏切りによって激しく燃え立たせた憎悪と怨念を思いがけない心境の変化で克服していくまでを描いた作品。