国会の『一強多弱』と自民党中心の長期政権の兆し:小沢一郎に対抗軸が作れるかは疑問だが…

小沢一郎は野党を大同団結させて与党を切り崩す『政局の名手』で、自民党と社会党の擬似二大政党制(イデオロギー対立図式)の『55年体制』を崩壊させた功績はあるが、結局、91年のソ連崩壊という『米ソ冷戦構造の終結』の余波を受けてのものでもあった。

小沢一郎氏、埋没回避に躍起―野党結集に意欲

現代でも右翼や左翼といった分類は無いわけではないが、安倍晋三首相率いる自民党のような“復古主義(改憲)・国家主義(安保と軍事重視)・自由競争原理・人権制約”の立場を『右翼』とし、それに反対する“進歩主義(護憲)・個人主義(自由と対話重視)・市場原理抑制・人権尊重”の立場を『左翼』としているに過ぎない。

自民党的な政策・価値観・思想性の対立軸として機能する政党が殆どなくなり、議席を大幅に減らした民主党もまた、自民党に近接する価値観や政治思想を持っている議員は少なくなく、政治が一つの流れに収斂しようとする『一強多弱のフレームワーク』はかなり強固である。

そのフレームワークを支える主な原動力は、『過半数の国民の政治への無関心・諦観』であることを考えれば虚しい枠組みでもある。『政治に対する期待・要求』は特別な思想性やビジョンがあるような人を除いては小さくなっている。

高齢化社会・日本経済の縮小予測などで『各種の負担増加・今よりも貧しい老後の予定調和』の認識が生まれていることもあるが、いずれにしても『今より収入が増える人は少ない・現在より税金や保険料は安くはならない・社会保障の給付は段階的に減る』といった経済情勢や人口動態から来る予定調和が、『政治の自分に対する影響力』を低く見積もる要因になっている。

国家の統制や内閣の権威を押し出し、軍事力(防衛力)の必要性や仮想敵の脅威を強調する自民党は、『内政・生活・社会保障の危機感』を上手く『外部の仮想敵の危険性・不安感』に置き換えて、増税や給与減、社会保障カットによるマイナスイメージを補填している。

一方、集団的自衛権の閣議決定や憲法9条、96条の改正案などでは、有権者の半数程度が反対に回って安倍政権の支持率は低下したが、この背景には『アベノミクス効果の息切れ・大企業や金融市場優遇の経済政策』によって一般国民の過半にはそれほど実際的な恩恵が見込めないことが露見したこともあるだろう。

護憲や平和国家(人権尊重)の維持、個人主義の尊重というのは、自民党的な政治に対するアンチテーゼの対抗軸ではあるけれど、政権を倒すほどの求心力や訴求力があるかというとそこまでのインパクトはないし、この分野では自民党的な復古主義・国権強化(弱腰外交の脱却・仮想敵国に対抗する安保)に賛成の有権者も多いのでアドバンテージを奪えない。

国民の多くは『政治の自分に対する影響力』を低く見て、『増税・義務の増加・徴兵というような政治による干渉や負担増』にだけセンシティブに反応しているので、『制度・憲法・外交・思想の複雑な解説や議論』によって民意の大勢を変えることは簡単ではない。政治に興味が乏しい人に投票行動を取らせることは難しいが、投票率が低ければ『固定票・組織票』をグリップしている自民党や公明党が有利になり、景気・雇用が悪くならなければ現状維持が選択される。

自民党政治は『保守的な道徳観・国家観を持つ層(バラバラの自由な国民よりも統率された規律的な国民によって構成される強い国家が良いとする層)』と『企業減税や産業振興(大企業優遇)・公共事業・産業保護によって恩恵を受けられる層』によって支持されながらも、イメージとしての『保守主義・強い国家像・政権の安定感』といったものが消去法で支持されやすい。

小沢一郎主導の政権交代が実績を残せなかったことで、再び自民党政権への揺り戻しが起こり対抗勢力は軒並み瓦解したが、現状では『自民党以外のオルタナティブな野党連合』を政策・思想本位で再結成することは現実的に不可能に近い。

日本維新の会やみんなの党などは、反自民的なリベラル(個人の自由・権利の優先)というよりは、自民党に近い国家観や政治思想を内包した『与党の補完勢力』に近い部分が多い。社民党や共産党などは、リアリティのない理想主義・極端な再配分や市場経済・財政規律を無視した社会福祉政策が多く、政権運営能力がないと見なされがちで議席も少ない。

小沢一郎がどういった政党の組み合わせや理念・政策の提唱で『反自民の対立軸』を作ろうとしているのか見えにくいが、『憲法問題・国家観と権利観・安全保障と平和主義(9条)・税制改革・原発政策・経済格差・人口問題』などにおいて合意できる政党の組み合わせは少なく、これらの政策メニューにおいてむしろ自民党の側に近い野党が多い状況がある。

政権交代可能な勢力を作るためには、『自民党政権の危険性(あるいは政権交代した場合に発生するメリット)』を示す必要があるが、増税政策がリアリズムとされ、子供手当てなどの給付政策がバラマキとされた民主党政権の失敗がある現状では、『国民にメリットのある政治改革・政策案』の説得力が欠けてしまった。

その結果、『不可避に負担が増える中でもよりマシな負担を提示してきそうな政党』が支持されたり、『個人の利害ではなく国民としてのプライドや使命感(仮想敵との競合関係)をかきたてる政治家』に人気が集まったりという図式も生まれている。だが、憲法改正や税制改革、原発政策、社会保障、社会格差への対応などで、自民党中心の政権にはない選択肢を野党が提出できなければ、『政権交代のない民主主義・低投票率(政治への無関心)』は当面続くことになるだろう(政治への関心の低さ・一部の政治家による重要事項の決定の流れは終わる事がないかもしれないが)。