森博嗣の『すべてがFになる』からのS&MシリーズとVシリーズは全て読んだ。その後の作品群は、ライトなキャラ小説に傾いた感じもあるが、漫画化や映像化のしやすさにも配慮した本を書いていて、『売れる本(時代性・ニーズに合わせた本)』を書けるプロ作家だと思う。
西之園萌絵と犀川創平が活躍するS&Mシリーズは、浮世離れしたお嬢様+学者のコンビで知的な謎解きに合っていて、二人のちょっと斜めに構えた『人生観・世界観の論議』が好きだった記憶がある。
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『φは壊れたね』からのギリシア文字を掲げるGシリーズも西之園萌絵・犀川創平が登場するが、主人公の女子大生が変更されたようだ。森博嗣自身が大学教員であることもあって、大学・院を舞台に『俗世間の価値観』の弱い世界観を作り、金持ちのお嬢様で『経済的制約』を無くしているが、キャンパスライフと斜に構えた思考遊戯の融合の面白さがあった。
森博嗣の小説は理系ミステリーと言われたりもしたが、本質的にはある種の『キャラクター小説』で、『生活や労働に追われる必要のない純粋に知的に遊べる理想郷』を個性的なインテリや美人女子大生のキャンパスライフに反映させている。美人なお嬢様+理系の秀才・天才の設定もスノッブなものだが、男性からすればこの手の女性キャラが好きという人は多いだろう。文字だけの小説だと、アニメしか見ない層などは排除されてしまうが。
西之園萌絵にしても真賀田四季にしても、圧倒的美貌に抜きん出た知性や冷静な観察力(世界解釈のまなざし)が宿るインテレクチュアルな女性のイデアというかアニマを物語的に創作したもので、オタク系美少女(ただ可愛ければ良い)とは別路線の理想型の提示(中身のある物語を含む)として見ても面白いだろう。
浮世離れした世界観に輪をかける犀川創平も、初期にはタバコを吸いまくり、世間一般の常識や倫理を疑って批判してばかりのかなりシニカルな人物設定だったが……シリーズが進むにつれて徐々に丸くなった印象がある。終盤は西之園萌絵と結婚していた記憶もあるが、そこから主人公格の女性の世代交代があったのかも。