二度目の総選挙大敗の結果まで武力で覆せば軍部は国民の敵となり、権力の正統性を全て失う。歴史的なミャンマーの民政移管はアウンサンスーチーのカリスマ無しには成し得なかったが、実際の政治をどう変えられるか。
『アウンサン将軍の娘(ビルマ建国史との相関)・オックスフォード留学(西欧的知性)+英国人との結婚』によってアウンサンスーチーの血統的・インテリ的なカリスマの土台が築かれ、『民主化運動挫折+自宅軟禁』によって反軍政の旗手としてミャンマー国民の求心力を集めた。軍の軟禁策が逆に彼女への国際的支持を強めた。
ミャンマー軍部はアウンサンスーチーという個人を過度に恐れ、『憲法・法律・司法判断』のすべてを恣意的に運用することで公民権・政治活動を大幅に制限、自宅軟禁で行動の自由を奪った。国外に亡命すれば自由になれたが、再入国がほぼ不可能になる為、長期軟禁を受け入れた。その選択が更に国民の信任を集めた。
アウンサンスーチー氏は『民主化運動の堅固な信念』によって、ミャンマーの歴史に民政移管の転換点をもたらしたが、『民主化後にミャンマーの政経・教育・福祉をどう改革するかのビジョンとロードマップ』は十分に開示されておらず、厳しいミャンマーの財政・民生・教育の立て直しに相当な困難はあるだろう。
アウンサンスーチーがアウンサン将軍の娘でなければ、民主化運動のカリスマ的指導者になれなかった可能性が高いという意味では、ミャンマーの政治体制が民主化されたとしても、国民の意識の上では未だ『世襲権力・血統カリスマの支持感覚』が残っており、真の民主化は未来のポスト・アウンサンの趨勢下で問われる事になる。
とはいえ、日本や欧米先進国、韓国も含め、選挙で政権選択する民主主義国家でも、『世襲権力・血統的カリスマの支持やレジテマシーの感覚』を離脱した国はないといえばない。日本の安倍晋三首相や麻生太郎財務相はいうまでもなく、日本の有力政治家も『祖父母より上の世代からの権力・支持基盤の継承者』が多数派ではある。