年末ジャンボ宝くじの1等の当選金が“10億円(7億円+前後賞)”ということで話題になっていて、宝くじ売り場では飛ぶように1枚300円の宝くじが売れている。
宝くじに対しては『控除率の観点(1000円買って500円以下しか戻らないように計算された50%以上の控除)』からも『当選率の観点(高額賞金は数百万分の1以下の当選率)』からも、最も割に合わないギャンブルとして『愚者の税金』といわれることもある。
こういった情報は広く知られているから、宝くじを全く買わない人の中には『愚者の税金・期待値を計算できる賢い人なら買わないはず』ということを強弁する人もいる。だが、厳密には宝くじというのは他の公営ギャンブル・パチンコパチスロなどとは単純に比較できない特殊な期待値を持つ『ローリスク+ハイパーリターン』のギャンブルである。
年末ジャンボ宝くじを10枚か20枚買っても、せいぜい300円か1000円が1~2枚当たればいいほうで、下手をすれば1円も戻ってこないリスクもある。しかし、宝くじやロトくじなど以外のギャンブルでは、1回の勝負でのリターンが『賭け金に比例する(それなりの元手がいる)+1回で数千万円以上のリターンは賭け金が数十万円~数百万円以上でないと有り得ない』という明らかな違いがある。
宝くじ10枚の購入金額は3000円であるが、宝くじの場合には確率的にはほぼゼロであるが、300円でも3000円でも買えば1等当選の可能性としての夢があるのに対して、パチンコでは300円ではそもそも玉を買えず、公営ギャンブルで300円で万馬券が当たってもたったの3万円程度にしかならない。
おまけに、他のギャンブルは時間と感情と金銭を浪費するデメリットも大きいが、宝くじは時間がかからず熱くなって大金を追加で賭けるようなリスクもなく、基本的に冷めた心理で行われるギャンブル(というか単なるくじの定額での購入)である。
宝くじにおいて『負けたお金を取り戻そうとする熱い心理(ハイリスクのテイク)』はまずないが、他のギャンブルでは負ければ負けるほどにそれを取り戻そうとする熱い心理によって、『ハイリスク・ノーリターン(損失の雪だるま式の増加)』に追い込まれていく。最悪の場合、人生そのものが借金で破綻する。その意味で、宝くじというのは『依存症・損失解消の心理』に陥って破滅しかねないリスクのある一般のギャンブルと同列に考えることが難しく、宝くじの購入層は必ずしも他のギャンブルの愛好者ではない。
宝くじがなぜ人気なのかは言うまでもなく、小さな投資金額でも大きな投資金額でも『高額当選の可能性』そのものがゼロではないということである。その高額当選の金額が、『生涯賃金と同等以上の金額(当たれば一人の経済生活・労働者生活の全体をそのまま買えてどんな生き方も自由にできる金額)』であるか『小遣い程度の金額(せいぜい数十万円~数百万円単位の金額)』であるかの心理的インパクトの違いは大きい。
宝くじは控除率と当選率から統計的に考えれば、まず当たらずに数百円から数千円(人によっては数万円以上買う人もいるが)を消費する『愚者の税金』ということになるが、どこかの誰かが当たっているという意味では『夢の購入』であり、さらに言えば大多数の日本人(労働者)にとって『1億円以上の現金』を短期間で無税で獲得する方法は宝くじ以外にはないということである。
宝くじを買わずにその3000円なりをコツコツ堅実に貯めれば、いつか1億円以上のまとまった金額まで貯まるかといえば死ぬまで貯めても貯まらないし、あまりに年老いてから数億円の現金を持っていてもその有意義な使い道や使うだけの健康状態がなくなってしまう。
宝くじを買わずに普通の人が真面目にコツコツ働いても、99%以上の人は10年以内に数億円の所得なり資産なりを築ける可能性はほぼゼロである。自力で数億円以上を稼ぐという確率もまた、宝くじと同等かそれよりも低い確率なのであり、『数億円以上が当たるくじ』というのはそれだけでハイパーリターンの夢を見せてくれるだけは見せてくれるのだw
逆に言えば、今の時点においてすぐに数億円以上の高額な金銭を獲得する方法(今ある人生や労働そのものを180度転換してしまえるほどの資産増加)が、一般庶民にはどんなにバリバリ働いてもケチケチ貯め込んでみても、ほぼ絶対的と言って良いほどに無理であり不可能である。
宝くじでも当たらない限り、今と同じような仕事と収入と環境と活動の延長線上で大半の人間は生きて死んでいくのだが、そのあまりにも当たり前の現実に対して宝くじというのは『もしかしたら別のリアルが芽生えるかも(今のままの自分と経済生活の延長では終わらないかも)』のイマジネーションを刺激してくれるということである。
そのため、数千円単位でも『もしかしたらの夢(当選率ほぼゼロのハイパーリターンの期待値)』を買えるという意味で、宝くじはそれ以外の代替手段がないものとして需要を集めるのだろう。他にもっと確率・効率の良い手段があるのであればそちらのほうが人気になるだろうが、まっとうな雇用・仕事でそんな大金が平均的な能力・発想力の人にすぐに稼げるような道筋もまたないのである。