不正な検査方法によってカタログ値を実際よりも良く見せかける捏造は、少し前にも独VW(フォルクスワーゲン)のディーゼルエンジンの排ガス不正問題の事例があった。排ガス不正問題は、トヨタと世界トップの販売台数を争っていたVWの世界販売台数に大打撃を与え、高額な賠償金・制裁金による損失も数千億ドルの莫大なものになった。
燃費不正の誘因として『燃費・今風を売りにしたハイブリッド車の普及率増加』があり、トヨタのアクアとプリウスが常に国内販売台数のトップを占める中(プリウスは車格が大きく本体が高いため新型発売からしばらくすると若干順位は落ちるがアクアはほぼ不動のトップにある)、非ハイブリッドのガソリン車(特に新車市場)は燃費競争において非常に苦しい位置づけにある。
軽自動車にはハイブリッドはないのだが、ここ数年は軽自動車の大型化・ラグジュアリー化(質感アップ)が進んでおり、本体価格(ホンダのNボックスなど高いモデルにオプションをつけると軽でも200万を超えてくる)がハイブリッド・普通車よりも圧倒的に安いというメリットを失ったため、『軽自動車間の競争激化』と『ハイブリッド・普通車との競争激化』の二つの波に晒される。
三菱自動車のeKワゴンはそこそこ人気のある軽だが、デザインとブランド力では他社の主力の軽自動車のブランド力(ホンダのN系・スズキのハスラーやワゴンR・ダイハツのムーブやミラ、タントなど)と比較して優位なわけではないので、三菱は日産にOEM販売して『デイズ』『デイズ ルークス』としてブランドや宣伝広告(デイズは嵐がCMを担当していた)を強化して売っていた。
販売台数もオリジナルのeKワゴンの約16万台に対して、OEMのデイズ系は約47万台であり、本家の三菱のチャネルから買う人よりも、日産のチャネルから買う顧客のほうが多いわけ(デイズのほうがekワゴンよりブランド力が高い)である。
デザインやブランド力で競争優位ではないeKワゴンが、燃費不正の誘惑に晒されるのは当たり前といえば当たり前であり、『性能・燃費のカタログ値』が他社の軽自動車よりも悪かったとすれば、あまり変わらない価格であれば敢えてeKワゴンを選んで買おうとする人が減ってしまう恐れ(三菱自動車の系列で働いている人とか販売担当との長い付き合いがあったり値引き幅に魅力を感じたりする人を除き)が強いからである。
燃費不正率は5~10%で大したことがないといえばないのだが(逆に言えば他社の軽と何とか同程度の燃費にまでカタログ値を上げたい。eKワゴンの燃費が他社製品より悪くないように見せる事だけが目的だがそれだけの性能向上ができない技術力の問題が透ける)、このレベルの不正を隠したり誤魔化したりせずに日産が公表せざるを得なかったのは、『知りながら隠蔽した罪』が露見した場合に、開発・検査を請け負った企業の三菱自動車と同罪の扱いになる恐れが強かったからであり、日産がデイズの燃費不正を意図的に行っていない(自社の開発車の燃費にやましい所はないし次のOEM発注はもう三菱自には頼まない)ことを明らかにするためだろう。
三菱自動車は過去の2000年、2004年にも、タイヤ脱落による事故死者や車体炎上の大事故を起こした不良部分のリコール隠しが発覚して、大幅な売上減少で会社の存続が危ぶまれる経営危機に陥ったが、グループ企業間の融資・協業や経営体制の刷新によって何とか危機を脱して、2010年以降は再び成長路線に回帰していた。
2013年、2014年には過去最高益を出すほどの勢いだったが、軽自動車販売はその売上の6割程度を占めており、eKワゴンの不正発覚による生産・販売の停止の打撃は相当に大きく、ブランドイメージが再度傷ついただけではなく、eKワゴンの後継車・後継ブランドの開発を短期間で成し遂げること(いずれにしてもeKワゴンがベースになるだろうが名前は変えざるを得ないか)も難しいように思う。
三菱自動車以外も、検査方法・カタログ値・ソフトウェアなどの不正が絶対にないとは言えないし、『検査だけパスすればいい・都合の良い数字だけ記載できればいいという価値観(ドライバーも走行条件が制約されているカタログ値と実際の燃費・性能にかなりの違いがあることは了解済みだろうという楽観)』によって、不正が誘発されやすい土壌は自動車会社に共通しやすいものでもあるだろう。