日本の学歴と収入の相関関係:日本では文系大学院卒は企業から評価されにくい

学歴と収入の相関。日本は25~34歳の高卒の賃金を100とした場合、同年齢の大卒の賃金は144(2012年)になるという。大卒給与は高卒の約1.4倍だが国際比較では日本の大卒は経済価値は低い。アメリカは170、アイルランドは180、チリは261で日本は大学進学率の高さ・実質学力の問題で割り引かれる。

“学歴”を得ることに価値はあるか?:職業・所得・教養・文化と学歴との相関

大卒者の経済価値の高さを規定する要因は、『大学進学率の低さの希少性(南米・アフリカ・東南アジアなど)・大学教育の充実の実質性(アメリカやイギリスなど)・大卒者でないと就職先に困る産業構造の選別性(アメリカやアイルランドなど)』であると言われている。ちなみに、学歴社会とされる『韓国』は、大卒者の一般価値が低い社会である。

あれほど受験競争が過熱する韓国でなぜ大卒者の平均賃金が130程度で高卒者とあまり変わらないのかの理由はシンプルだ。大学に行かないと就職先がない韓国では大学進学率が高くなり、日本と同じく学歴バブルが起こっていて『大卒者間の競争』が激しくなった。韓国内の有力企業は数が少なく、並の大卒では就職が困難だ。

日本も韓国と同じで大学を出たからといって、特別に優秀ではなく専門性もない並の大卒では待遇の良い大企業になかなか就職できないという大卒者間の競争激化の構造がある。日韓の大卒社員の初任給は、平均30万を超えるアメリカと比較して相当低い、国際競争で不利な位置づけにある。名目上の大卒の経済価値は落ちやすい。

日本では子供の教育支援政策として、『大学までの教育費の無償化』が言われることも多いが、現実には大学まで実質無償化(大幅な大学の学費の減額)にした北欧の福祉国家ノルウェーの大卒者の賃金は107でほとんど高卒と変わらなくなっている。大学全入が可能な制度にすると希少性がゼロに近づくからである。

デンマークもノルウェーと同程度の大卒平均賃金になっているが、ドイツやフランスなども大卒者には学歴上の権威(上級公務員・専門家としてのキャリア)はあるが経済上のメリットは日本の大卒と同水準だ。先進国は概ね名目の学歴価値が下落し、『何ができるかの実質』が大卒間競争で問われる構造に変わった。

文系の大学院修了というのは、理系とは比べようがないほどに冷遇される。というか、ロースクール以外は専門職との相関もないので一般企業に就職するなら大半は進学しないようになっている。文学・哲学などの類のPh.Dなどを持っていても、大学教授などになれるならともかく、一般企業では逆に敬遠されやすい問題もある。高学歴ワーキングプアも近年では増加しており、学歴と職業的地位が連動しにくい。

大学卒と大学院卒の格差も含め、大学院を出ないと取れないお金のかかる専門資格を増加させることは、家庭の経済格差によって就業可能な職種の制限を強めるので問題もある。学校の先生でさえ大学院を出ないとなれないようにしようといった動きもあるが、ロースクールと同じで専門家輩出の教育機関として機能するかは微妙だ。

専門性を深める目的や実践的な知識・技術を身に付けるために、4年間の大学教育だけでは足りないという実証的根拠・職業的ニーズがある分野はいいが、『学生年齢の長期化・学歴の参入障壁』を強める事にはメリットもデメリットもある。日本では院卒や専門家としての知識の深さが評価されない世論・企業文化もあるので、いたずらに学生生活の年限を延長するのは好ましくないだろう。

その職業に就くための年数が、高卒から最低でも医師のように6年以上(実際は専門医資格や経験云々でそれ以上でしょうが)かかるような職業は、いったんその学部に入ると途中でやり直しが効かず、年齢も高くなるので人生を一点に掛ける図式への覚悟が要る。文系の大学院は正規雇用枠が狭くて、ワーキングプア問題が起こりやすいのである。

産業や技術、医療に役立たない(マルクス主義の挫折や自由主義・資本主義の優位で社会・政治の啓蒙的な学問の役割は終わった)という意味おいて、リベラルアーツの文系不要論も多い。

日本と欧米の雇用慣行というか仕事の意識がかなり違うのも、院卒の軽視に関係しているかもしれない。英米などは特に専門家であれば四大卒の学歴では、専門性を研鑽する期間が短いと見なされやすく、専門家コミュニティではアジアよりも格段に学歴主義の世界であるのは確かで、肩書きと誰に教わったのかの人脈が重視される。

企業の一員として働いている限り、個人の独立的な専門家意識を嫌う日本の企業・社会の風土は根強くある。日本は基本的によほど商才と専門性がリンクしないと学歴エリートが企業に頼らず稼ぐのは困難。青色LED研究で揉めた中村修二氏が叩かれまくったのも、個人は企業に与えられた環境あってこその意識の現れだったのだろう。

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