イギリスのEU離脱問題、離脱派の扇動役だったボリス・ジョンソン前ロンドン市長が保守党の党首選を辞退した。あれだけ離脱の必要とメリットを訴えていながら、EU離脱交渉の困難を前に辞退とは無責任だ…EUは『EU単一市場のアクセス』と引換えに『人の移動の自由』を求め、離脱派の望む移民制限は出来ない恐れがある。
英国独立党のファラージュ党首も、EU拠出金を英国民のNHSの医療費に回せるという公約を撤回、EU離脱をしてもEU拠出金によって国民の実質負担が減らせない事を認めた。離脱によって生じるメリットとされた『移民制限・社会保障負担軽減』の実現可能性が狭まり、EU市場参加に規制をかけられるリスクが懸念される。
ジョンソンの辞退によって、保守党党首の座が近づいたのは、サッチャーの再来とも言われるテリーザ・メイ内相だ。ジョンソンを補佐していたマイケル・ゴーブ司法相も出馬するがメイ優勢は固い。メイ氏は『EU残留派・移民制限派』だが、9月に首相に就任しても『年内の離脱協議』を拙速に開始すべきでないと発言している。
英国のEU離脱問題は、キャメロン首相が残留派が勝つ目測で挑発的に仕掛けた『国民投票』で始まった。この国民投票は英国の不文憲法や法律に基づくものではなく、結果の実行が義務付けられているわけではない。仮にメイ首相が誕生して『国民投票やり直しの嘆願』が増えた場合、見直しの可能性もゼロとは言えないだろう。
EU側は英国のブレグジットに対して『こちらは英国が離脱しても困らないから、できるだけ早く通告書を送付せよ』とプレッシャーをかけているが、英国は政府も国民も『離脱通告書はまだ送らない方が良い』と引き伸ばし作戦で及び腰になっている。キャメロンは次期政権に全面委任するとし、メイも今年は協議しないと語る。
世界の通貨競争でも、英国のポンドは売り浴びせを受け続けて急落している。米国・日本の株式市場が持ち直しの動きを見せる中、『EU単一市場で不利な貿易規制を受けかねない恐れ(欧州からの利益なき孤立の懸念・英国の内部分裂のリスク)』から英国は信用力が落ちているが、離脱協議を担う次期政権は市場の圧力も強い。