○トランプ大統領の政治理念を象徴するのが、アメリカ人(特に白人労働者層)を保護し敵(不法移民・ムスリム・外国製品)を米国から隔離・排除する『壁』だが、この壁は『移民国家・人種の坩堝』の熱量で発展した米国の自己否定でもある。
米国の入国制限に国際社会が反発、中東同盟国からも批判
トランプ大統領やその熱烈な支持層にとって、現在のグローバリズムや移民国家(人種の坩堝・非白人の影響力増大)、イスラム過激派の潜入は、『アメリカ合衆国の純潔性の濁り』として受け取られている。国境や自由貿易やムスリム入国を阻む『壁』が、リスクを濾過する装置のようにメタファーとして求められている。
だが米国の活力と拡大のエネルギー源になってきたのも『移民の労働力・ハングリー精神・人口増加』で、独立戦争以降、必ずしもアングロサクソン系の勝利・発展の歴史のみに一元化できるものではない。黒人もアジア系もヒスパニックもムスリムも移民から米国市民としてのアイデンティティを得て社会貢献した者が無数にいる。
トランプ政権の『難民の入国拒否』は国際条約・人道的責任の履行に反し、『特定国家のムスリムの入国制限』はイスラム圏に対する相互の怨恨や偏見を助長する恐れもある。『壁による国境・セキュリティ強化』は現代の先進国が対応を悩む(自国の価値と合わない)異質異端・(恩を仇で返される)懐疑心と絡んで賛否が割れる。
トランプ大統領のムスリム・難民の米国入国制限の政策の趣旨は、『永久に中東の特定国家の市民の入国を認めない』のではないようだ。入国制限には期間設定があり、永住権(グリーンカード)保持者は入国可能。目的は『入国審査の厳格化(履歴照会等で潜在的な反米主義者・テロリストの入国拒否)』にあるとしている。
内戦が続くシリアの難民だけは無期限に入国規制するとしているが、政情不安のイラン・イラク・リビア・ソマリア・スーダン・シリア・イエメンは90日間の入国規制だ。裏返せば、これらの国々に反米主義者やIS関係者が多いという事だが、トランプは一律の入国制限から身元・履歴の徹底審査の篩い分けにつなげたいのだろう。
徹底審査の篩い分けが、どういった情報源を活用するものなのか、どれくらいプライバシーに深入りするのかによって、国際社会や関係各国の反応は変わってくる。イスラム教の信仰の形態と深さ・団体所属歴なども掘り下げて調べ、関連性・連想性のみでテロリスクの認定がなされれば、イスラム圏からの反発は更に強まる。
○トランプ政権の唯我独尊の外交方針や濫発する大統領令が、国内外から批判を浴びるが、白人労働者層・右翼層中心に『米国ファーストの反グローバル・反イスラム・反男女平等』を礼賛する層も厚い。日本人が知るニューヨークやロサンゼルス、シアトル等の先進国らしいリベラルで多様性のある大都市は米国全体の一部に過ぎない。
アメリカ合衆国の大統領制は、大統領が閣僚だけでなく約4000人のホワイトハウスのスタッフを政治任用することができる特徴があり、日本のような内閣と官僚の相関が弱い。ドナルド・トランプ大統領も自分の政治思想や価値観に合致する『お気に入りの過激思想を持つ人材』を次々にホワイトハウスの重要ポストに配置した。
トランプ大統領の閣僚人事の大きな特徴として、『元退役軍人・攻撃的な右派が多い』『イエスマンしか入れない(反対意見やバランス感覚は基本認めない)』があり、特に主席戦略官でブレーンとなったスティーブン・バノンは排外主義のネット右翼系メディアの代表を務めた異色のキャリア・過激思想の持ち主で不安視されている。
ジェームズ・マティス国防長官も中央軍司令官のキャリアだが、トランプは『負け知らずのマッド・ドッグを日本に派遣する』など交渉の初期段階から攻撃性や対決性を演出した。憧れる人物もダグラス・マッカーサーとジョージ・パットンなど歴戦の将軍だが『友敵理論を過剰適用するトランプ政治』は友好国の信用を毀損している。
トランプ大統領はベトナム戦争で徴兵逃れをした贖罪意識があり、それがコワモテの元退役軍人を揃える軍事重視の演出、歴戦の将軍を従えるリーダーになり敵(反米のイスラム過激派・テロリスト,日本・中国・メキシコなど)を打倒したい英雄願望につながっているとの報道もあるが、排外的世界観を米国が実現する弊害は大きい。
米軍の最高幹部は『国際情勢のパワーバランス・米軍展開のコストと効果』を知っているので、トランプ大統領のイスラム圏の多くを敵に回す軍事作戦などに賛成するとも思われない。米国でも『政治不信・財界批判』が強まっており、庶民の支持率が高いのは『軍』と言われ、米国も新興国的な軍頼みの政治兆候が見え隠れする。