仮想通貨の自律分散システムは、「人物・政党の裁量を許す政治」のカウンターとなるか?

経済ニュースでは、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨の話題が増えているが、その大半は投機対象としてのビットコインの相場急騰の話題である。

ビットコインと呼ばれる暗号通貨(仮想通貨)が誕生した2009年には、誰も通貨発行の責任主体がいないビットコインなど相手にせず、ビットコインには1円の価格もつかなかった。当然、法定通貨の代わりにビットコインを受け取ってもいいという商店はゼロであり、ビットコインは通貨として持つべき交換機能を備えていなかった。

ブロックチェーン技術を使った、誰でも作成できる仮想通貨に初めて価格がついたのは2010年8月であり、その時のレートは1ビットコイン=0.0769ドル(約6円)に過ぎなかった。

商店主は誰ひとりとしてビットコインでの支払いを認めなかったが、2010年末にある物好きな個人経営のピザ屋が500ビットコインくらいでピザセットをお遊び感覚で販売したとされる。史上初めて、ビットコインに商品との交換価値が認められた瞬間であった。

現在のビットコインの価値は、1ビットコイン=6000ドル以上(約67万円以上)であり、そのピザ屋の店主が500ビットコインを現在まで放置したままにしておいたならば、その時価は約10万倍以上で、500ビットコインは3億3千万円以上の財産的な価値を持つようになっている。

ピザセットを3億3千万円で話のネタのつもりで売ったという訳のわからない話になるが、仮想通貨というものが、わずか7年の間に如何に需給で市場価値を急速に高めたかが伝わるエピソードであり、ある意味では非常にいかがわしく感じられる話でもある。

ビットコインやそれ以外のオルトコインが革新的発明と言われたり、仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーンが歴史的技術と言われる理由は、「管理者(責任者)がいなくても自律的に機能し続ける貨幣システム」として改ざんをされる欠陥がほぼないからで、ブロックチェーンは銀行員という自意識を持つ人間よりも「不正・改ざん」を見逃さない透明性を極めたチェックシステムを持っている。

ブロックチェーンには特定の管理者(責任者)もいなければ、すべてのデータが一台に保存されている中央サーバーも存在しないので、仮想通貨のブロックチェーンのセキュリティーを中央サーバーに侵入して数字を改ざんするような従来のハッキングは原理的に不可能である。

ブロックチェーンは、指定された時間単位で確実に「ブロック」と呼ばれる分散データをチェーン状にして次々に積み上げ、過去から現在に至るまでのすべての仮想通貨の取引データが追跡可能な形(常に過去からきちんと正確につながっている長いチェーンだけが正しいデータとして追記され続ける)で公開されている。

ウォレットと呼ばれる通帳の中身も公開されており、すべての取引の変化が残さずに記録されているので、その一部だけを改ざんしてもすぐに検知されて「虚偽データ」として破棄される。取引データの正しさが検証され終わって封印されたブロックは原理的に書き換えが極めて困難で、前後のチェーンのつながりの検証が常に行われるので、部分的改ざんに意味がない。

ウォレットにいくらの仮想通貨があるのかは誰でも見ようと思えば見ることができるが、ウォレットにつけられた名前は完全にランダムなアドレスであるため、そのウォレットが実際に誰のものであるかの個人情報は調べようがない。

もっと言えば、仮想通貨のウォレットは一般の銀行口座と違って、実名・住所・電話番号などを登録して発行されるというものではなく、ウォレットにつけられたアドレスとパスワードのみによって自律的に運用されている。

そのため、そのアドレスとパスワードをなくした場合は、どれだけ大金を預けていようと引き出せなくなる恐れがある(取引所が個人情報・一般の銀行口座と紐づけして管理していれば救済措置はあるかもしれない)。

仮想通貨は、数字こそオープンだが、匿名性が保障されたシステムになっている。匿名性と個人情報は完全に守られているが、ウォレットに出入りしている数字は常に情報公開されて不正ができないように透明性が守られている。

一般的な銀行システムは、他人の通帳の数字の動きや銀行内部で行っている金額の操作を他人が監視することはできないが、仮想通貨では匿名性を担保した上で、ウォレットの中身をオープンにして数字の動きに不正がないか相互に検証できるシステムになっている。

分散台帳システムとも呼ばれるブロックチェーンの革新性とは、簡単に言えばインターネットを介して「コピー・改ざんされても致命的ではないデータ」だけではなく、「コピー・改ざんされれば社会秩序が混乱するリスクのある価値(お金・権利などの所有権を偽造されると非常に困るもの)」までも、「管理者不在(手数料を取る仲介者なし)」で自由かつ安全にやり取りできるようにしたことにあると言えるだろう。

仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーンは、「フィンテック」と呼ばれる金融とIT(情報技術)の融合を推進する技術でもあり、「管理者不在(手数料を取る仲介者なし)」でお金や権利を改ざんリスクを排除してやり取りすることができる。
国家や中央銀行の介在を必要とせずに、自由にお金(通貨)を発行でき、実際にそのお金が交換価値や投資価値を持っていて、使える店舗も増えているということは、国家の通貨発行権の独占性に干渉するある種の金融革命であり、従来の常識を超えている。

ビットコイン発明者(個人あるいはハッカー集団)とされるサトシ・ナカモトは、おそらく極端なリバタリアンかアナーキストだと思われる。「マネーサプライを勝手にコントロールする特定の管理者が存在する政府の通貨システムこそが、歴史的に通貨価値を毀損してきたとする持論」を述べ、先進国に共通する「量的金融緩和」のような上限のない通貨発行に対して批判的である。

仮想通貨は、人間の恣意を極力排した「ルール(プロトコル)」にのみ従う自律的・市場的なボーダーレスの通貨制度であり、人間ではなくルールであるからこその透明性・公正性・自律性を持っている。

システムの中心に「管理者(人間)」ではなく「共通のルール(プロトコル)」を置いて、ブロックチェーンで自律的に分散処理するという考え方に基づく組織体制は「DAO(Decentralized Autonomous Organization:脱中心的な自律分散型組織)」と呼ばれている。

仮想通貨も含まれるDAOは、非常に応用範囲が広いものであり、「人間でないから利己的な不正や改ざんのリスクがない(人間の管理者を大幅に減らせるか不在にできるからコストを抑えられる)というメリット」は銀行・通貨に限らず、さまざまな行政・民間のサービスに応用されていく可能性が高い。

自律分散型システムは、垂直的なトップダウンの上下関係の機能的な必要性を無くして、特定の管理者・上位者の存在を不要なものにしていく可能性がある。水平的な相互確証の分散台帳システムによって、「目的・要件・禁止事項が明確なやり取り」に関しては、DAOがもっとも正確かつ妥当な結果を出していくことになるだろう。

近未来では、AIやロボットがDAOの自律分散型システムと融合していくのかもしれないが、その時には「政治家・権力・選挙」というものの価値も大きく割り引かれて、選挙で暫時に権力を委任された「生身の人間(感情・欲求・関係を持ち不確定性のある人間)」が恣意的に政治問題を判断できる事項は大幅に減らされているのだろうか。

システムの中心に「管理者(人間)」ではなく「共通のルール(プロトコル)」を置くというDAOの発想は政治に実装されれば、「共通のルール策定」に重点を置いた直接民主主義のような形態になるだろう。

仮に「政治で人を殺してはならない・国民の自由権を~のレベル以上は侵害してはならない・社会の財は最低限の文化的生活に配慮した配分でなければならない・核兵器を保有してはならないなどを明記したプログラム・プロトコルのルール」が前提になるDAOの政治がボーダーレスなものになっていけば、北朝鮮の核問題なども自動的に解決するし、政治はあらゆる悪事の原因になることが原理的に不可能になる。

世界全体で軍縮・核廃絶などの共通ルール執行ができるようになり、「人権保護・生存権・倫理的分配・差別廃止」などを変更不可能なプロトコルとした禁止原則の意思決定は、直接民主主義を踏まえた自律分散型のコンピューターシステムに依拠するので、誰も特定の国家や人物に文句は言えないということにはなる。

仮想通貨よりも法定通貨のほうが圧倒的に支持されていることからも、「特定の人間(代表者・政党など)」よりも「みんなで決めた公正なルール(絶対に政治が理不尽な決定・人権侵害ができないようにプロトコルで歯止めをする)」に従う政治が良いとする人間が多数派になるかといえば、「民族意識・主体性・自意識・伝統文化などへのこだわり」が障害になるのでなかなか難しいだろう。

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