マレーシア航空機撃墜事件と戦争における理不尽な誤射・誤認

298人を乗せたマレーシア機17便(ボーイング777)が突如撃墜されて、親ロシア派武装勢力が展開するウクライナ東部に墜落した。オランダ人193人をはじめとする欧州人が多かったとされる乗員・乗客は全員死亡したが、マレーシアのクアラルンプールに向かう途中でウクライナ領空近くを飛行したため、『敵機』と誤認されて地対空ミサイルで撃墜されたと見られている。

マレーシア機撃墜、「親ロ派が誤射」の可能性高まる=米当局者

撃墜事件が起こった当初は、ミサイルを発射したのがウクライナ軍か親ロシア派の軍事勢力かで責任の擦り付け合い(いわゆる報道・ネットのメディアを活用する情報戦)も見られたが、現時点では親ロシア派の軍隊が発射したロシア製の地対空ミサイルBUK(ブーク)でマレーシア機が撃墜されたという結論に近づいている。

ロシアや親ロシア派は自分たちの放ったミサイルによって、民間機が撃墜されたことを公式には認めていないが、現地の政府調査団の事故調査に対して一部の親ロシア派が妨害工作を講じた(墜落機体の証拠部分の切断・隠蔽をした)という報道も為されている。

ロシアが親ロシア派にミサイルをはじめとする武器を供与していることは明らかであるため、オランダ人を多数殺害したマレーシア機撃墜が親ロシア派武装勢力によるものであると確定した場合には、『EU(欧州連合)によるロシアの非難・制裁要求』はより過激なものになる可能性が高い。

ドネツク人民共和国の首相を名乗る親ロシア派幹部ボラダイ氏は、遺体とブラックボックスを自発的に引き渡して、国際調査団の安全な現地入りを許可したが、親ロシア派の本音としては撃墜した勢力が不明でよく分からないという形で幕引きを図りたいだろう。国際調査団は現地には入ることができたようだが、親ロシア派武装勢力は全面的に調査に協力しているわけではなく、調査活動の制限・妨害も行っているとされる。

紛争当事国でも軍用機でもない民間航空機がいきなり撃墜されて、無関係な国の乗員が死亡するという事件は珍しいが、こういった理不尽な事故が起こっても『紛争中・自衛権の行使(紛らわしい領空侵犯)・やむを得ない誤射』などを理由にしてまともな責任追及や損害賠償が行われることは殆どないだろう。

ウクライナ内戦が思わぬ形で飛び火したマレーシア機撃墜事件だったが、アメリカとEUのロシアに対する非難・締め付けがますます強まることになり、『クリミア半島のロシア編入』に続いてウクライナ情勢の緊迫の度合いが増している。

『ロシアの親ロシア派武装勢力(秩序と規律に欠ける部隊も含む義勇兵・混成軍)に対する武器供与』についても、国連での制裁決議が提出される可能性が出てきたが、ロシアは常任理事国であり自らの製造したミサイルで撃墜されたという証拠はないと言い張るだろうから、『拒否権』を行使して実際の制裁決議はできない流れにはなる。

しかし、戦争・紛争の情勢緊迫や非常事態を理由にして、無関係な外国人を殺傷したり民間航空機を撃墜したりするような『誤射・誤爆の責任と賠償』を曖昧にすることは許されないと思うし、それはロシアだけではなくアフガンやイラクで誤爆を繰り返したアメリカについても同様である。

自国民や自民族を守るためという戦争の大義名分を掲げる武装勢力や指導者は多いが、実際の戦場や戦闘行為では『誤射・誤爆・コラテラルダメージ』をゼロにすることはできず、無関係で無力な一般市民がこれまでどれだけ多く犠牲になってきたか、恐怖と不安を味あわせられてきたかは想像に難くない。

その大勢の死・恐怖・怨恨の背後に、『兵器産業・軍隊の巨大な既得権益(武器を大量に販売して消費することでその必要性をアピールする循環構造)』があることを思うと暗澹とした気分にならざるを得ない。親ロシア派に限らず、当事者国以外の外国から武器が供与され続けている代理戦争は多いが、『兵器産業・軍部の拡大』と『外国市場の開拓・巨大産業の雇用や利益の維持』の結びつきによって、戦争のニーズが生み出され続ける側面もある。