映画『ルパン三世』の感想

総合評価 89点/100点

キャスティングが好みに合っていると感じられるかどうかで評価の分かれる映画。個人的には『小栗旬のルパン三世・玉山鉄二の次元大介・綾野剛の石川五ェ門・黒木メイサの峰不二子』はすべて漫画のイメージに合っている感じで面白かった。

小栗旬は声優のような声芸でもいける俳優だったんだな、アニメ版のルパン三世に近い声色を使っているが、コミカルな愛嬌のあるキャラクターでありつつ、それほど違和感がなくて良かったと思う。

もんちっち風の髪型もだが、原作でルパンが愛用している濃い赤のビロードのタイトなスーツも似合っている。ちなみに映画が始まる前の『映画泥棒の犯罪CM』も、『こそこそちんけな盗みをしてるんじゃねぇぜ』のルパン三世バージョンになっていた。

声色という意味では、銭形警部役の浅野忠信もアニメを意識した声作りをしているのだが、銭形警部のほうが声を似せるのは難しそうで、小栗のルパンほど声の個性化には成功していない。しかし、浅野忠信の銭形警部も、作品世界にフィットした役柄になっており、要所要所で存在感を示している。

玉山鉄二の次元大介は髭面が似合い過ぎていてとにかく渋いね。こちらも黒の細身のダークスーツを着こなして、孤高のガンマンのような風貌が出ていてかっこいいのだが、今となっては時代遅れ(嫌煙家・禁煙運動団体からは怒られかねない)の『くわえタバコ』のシーンが妙に決まっている。

ルパン・次元・五右衛門の三人が並んでゆったり歩いてくるシーンで、次元大介がくわえタバコをした手で黒のハットをさりげなく抑える横向きのシーンとか構図が良すぎる。小道具としてのタバコの有効性は『るろうに剣心』の斎藤一(江口洋介)などでも感じさせられたが、どこか厭世的でニヒルなキャラクターが余裕・内省を示す場面との相性が良いのだろうか。

綾野剛の石川五ェ門は一歩間違えればお笑いキャラなのだが、壮絶な強さをアピールする場面を幾つか配置しながら、ストイックな剣術の達人を自然に演じきっていてこれも良かった。

次元大介と石川五ェ門が初対面でいきなり腕試しの決闘を始めるが、その後に好物のみたらし団子を食って機嫌を直したり、高熱レーザーのセキュリティシステムのパターンを何日間も徹夜して読もうとして、読みきった後にぶっ倒れたりとかシュールな五エ門を楽しめる。

ビルの屋上でのパーティーのシーンでは、五エ門だけテーブルが別で少し離れた所に位置しているのだが、みんなが赤ワインで乾杯しているのに、一人だけ日本酒に和風のつまみである。

黒木メイサの峰不二子も原作ファンには、色々な不満やスタイルの違いはあるだろうが、独立した映画作品として見れば、ルパンが惚れているセクシーで妖艶な峰不二子という役柄を上手くこなしているし、格闘のアクションシーンも良かった。

手に入りそうで入らないルパンにとって最高の女が峰不二子であるが、抱き寄せては突き放されるのダンス風の絡み合いから、わずかに唇に届かない寸止めのキスというスピーディーな展開も映像的に面白い。最後も古代ローマの秘宝『クリムゾン・ハート』を贈ればルパンの女になるという約束を反故にされ、銭形警部に追われながらエンドロールに入っていくというお決まりの展開。

カメラワークというかそれぞれの登場人物のカッコよさ(セクシーさ)を協調するスナップショットのような写し方が上手いというか、『意識したキャラ立ち』をがっちりしている映画だ。

例えばルパン三世が札束の詰まったカバンを片手で持って、笑顔でずらかろうとしている瞬間のショットだとか、次元大介がくわえタバコで拳銃を回転させて早撃ちするショット、石川五ェ門が斬鉄剣を振るった後に刀を静かに鞘に収めるショット、ゴージャスに着飾った峰不二子の自信満々な表情のショットなど、フォトグラフ風の『各キャラの決めポーズ・決めの表情のような場面』が随所に織り込まれている。

他人の宝物を盗み取る大盗賊や怪盗をヒーローとする文化基盤は、『悪人から奪う義賊・レジスタンス(反体制)・資本家や大富豪の腐敗・格差や身分の差違・法律や経済の不公正・弱者の抵抗』などに由来するが、作中でもザ・ワークスの首領が『我々は有り余るほど財力・宝物を持った金持ちからしか奪わない』と宣言していたりする。

法治主義(合法違法)の正論が語られやすい現代では、ルパン三世も強盗殺人までやっているただの犯罪者ではないかという批判、金持ちにも清廉な人はいるし努力して稼いだ結果を奪うのはけしからんという見方も出るかもしれないが……クライムサスペンスや反社会的ヒーローのジャンルは一貫して存在し続けるので、『秩序・常識・法律に収まらない破天荒さや陽気さ』への憧憬は、誰しも無意識的には持っているものである。

ストーリーは、古代ローマの執政官アントニウスがクレオパトラに贈った至高の秘宝『クリムゾン・ハート』を巡るもので、ルパン三世一味が、タイの裏社会のドンであるプラムットが建設した難攻不落の要塞(ジ・アーク=方舟)からクリムゾン・ハートを盗み出そうとする。

前半は、大盗賊団『ザ・ワークス』の一員であるルパン三世とそのライバルのマイケル・リーとの争いが展開されるが、ザ・ワークスの老リーダーであるトーマス・ドーソンを親の仇と思い込んで暗殺したマイケル・リーは、タイの裏社会を牛耳るプラムット(本当はプラムットがマイケルの父を殺害していた)に騙されていたのだった。

ルパン三世のシュールでコミカルな言動、ルパン一味の卓越した身体能力(戦闘技能)を生かした戦いとそれぞれの個性、スマートな盗み・計略と峰不二子との不器用な恋愛、ルパン三世の祖父のアルセーヌ・ルパンとザ・ワークスとの関係、プラムットの要塞攻略など、色々な見所が準備されている。