御獄山の噴火による登山者の被害。予測困難な活火山の噴火時期。

木曽御獄山(おんたけさん,3067m)は、古代の昔から信仰登山で登られていた山で、近代以降もその裾野の広い巨大な山容(南北3.5キロにわたって外輪山を結ぶ山頂が広がる)に人気があり、日本百名山の一つである。

7合目までロープウェーが通っているため、3000メートル峰としての登山の難易度ではそれほど難しい山ではなく(火山噴火がなければ難所はなく避難小屋の休憩スポットも散在している)、年間約10万人の登山者を集めている。

しかし、1979年(昭和54年)10月28日に大噴火をしたことがある複合成層火山で、2008年にも噴火警戒レベルを引き上げる変化があった。現在も活動を続けている活火山で、活火山としての標高は富士山に次ぐ第二位である。噴火の事前予測は現在の技術・知見では不完全なところが多く、今回の噴火被害を前もって防ぐことはできなかったと思われる。

9月27日の噴火を気象庁は全く予測できなかったが、現在の火山噴火の予測方法は『噴煙の噴出量・マグマの上昇度・周辺地熱の上昇』に大きく依拠しているので、突発的に水蒸気爆発が地表を突き破ってマグマ・火砕流・火山灰が噴き出してくる型の噴火を予測することは原理的にできない。

噴火した時間帯に御獄山に登っていた登山者の生死を分けたのは、単純に『その時点での山中における位置』であり、噴火地点や山頂近くにいた人の大半は逃げ遅れて死亡している。

火口から噴出した噴煙の高さは約11キロで、排出された火山灰や岩石の量は地表50センチ以上に堆積するだけの量というから、黒灰色の噴煙に逃げ場のない頂上や開けた場所で直撃されれば助からない可能性が圧倒的に高く、硫化水素の有毒な火山性ガスで死亡した人も多いだろう。

ある程度の噴煙を受けて助かった人の多くは、山小屋・避難小屋・岩の隙間などの『呼吸可能な空間が確保できる構造物』の中にいた人と思われる。登山者が撮影した映像を見ると、噴煙が湧き上がって目視できるようになった状態から、100~200メートルは標高が低いと思われる場所まで、噴煙が覆い尽くすまでの時間は1分間もないくらいで、撮影した人よりも噴煙に近い位置にいた人は逃げるのは困難である。

今回の御嶽山の噴火は、『噴火した日時』も運が悪かったように思う。最も登山者が多くなりやすい週末土曜日の午前11時53分に噴火している。これが平日の噴火で更に日没以降の時間帯であれば、登山者の犠牲は限りなく0人に近づいていたと思うが、自然は人間の都合や生命に構って動いているわけではない。

日本には多くの活火山があり、それらの活火山の多くは数十年以上にわたって大規模な噴火をしていないが、地中のマグマが蓄積を続けていると推測される以上、その山が明日噴火するのか、10年後~100年後(それ以上先)に噴火するのかは正確には分からない。

私も少し前に宮崎県・鹿児島県にわたる霧島連山のカルデラ地形と大浪池の壮大な景観を眺めながら韓国岳を登ったし、噴煙量の多い活火山である熊本県の阿蘇山(中岳・高岳)の岩登りにも何度か行ったが、こういった山も現時点の噴火警報レベルは低くても、いつ噴火するかを確実に予測できるわけではなく噴火すれば一定以上の死亡リスクはある。

御獄山も雄大な山容とカルデラの景観が人気の山であり、普段であれば無雪期の3000メートル峰の中では安全度が高い山に該当するが、自然の猛威や変化は科学技術が発展したように思える現代でも予測し尽くすことは難しい。

何十年も活動していなくても、活火山に登る時には『もしかしたらの自然災害の覚悟』は必要とは言えるのかもしれないが、確率論ではあるもののちょうどこの日のこの時間帯になぜ起こるのか、という不運はどんな事故・災害にも思わずにはいられないことである。

御嶽山で亡くなられた方のご冥福を祈ると共に、救助活動によって一人でも多くの方が無事に下山できることを願っています。