朝日新聞の従軍慰安婦問題における誤報は、吉田清治氏の強制連行の創作の証言を『歴史的事実』と即断して報じた事から始まるが、近しい歴史は資料主義と証言重視のどちらに偏っても認識を誤る危険はある。
従軍慰安婦問題が日韓関係の大きな障害となり、国際社会における旧日本のイメージを歪ませてきたのは事実だが、本来この『戦時下の性・女性の搾取』の問題は、日本と韓国の二国関係の文脈・利害に留まるものではない。政府・軍の直接関与がなくても、『女性の権利侵害・自由剥奪・性的な尊厳の蹂躙』が世界各地の戦争で繰り返され黙認される恐れがあるという認識の共有が大切になってくる。
日本は戦後の近代化・民主化に成功し、人権尊重の先進国としての地位を固めたが故に『誤報含む従軍慰安婦問題の謝罪・賠償の要求』にも真摯に内省的に向き合ってきたが、イスラム国や北朝鮮など初めから人権を守るつもりがないならず者国家・集団は『戦時犯罪・人権侵害の責任』を責められても内省・対応はしない。
その意味では、資料主義の上では日本に反論の余地が多い従軍慰安婦問題に対しても、日本が朝鮮半島を併合した旧宗主国として『総合的な戦前日本の総括の一部』として慰安婦問題に向き合った姿勢は、『主権国家の無謬論』に陥らない自国に不利な問題も話し合おうとする国の姿勢として評価されるべきものかもしれない。
先進国が途上国からの『資源・領土・労働力の一定の搾取』の上に豊かさの基盤を築いた歴史過程は否めないが、かつて途上国だった韓国・中国が経済力で先進国に近い力量を蓄えてきた今、『戦時の歴史的経緯・国力の差』に配慮してきた日本の外交姿勢も変化しつつある。
過去の歴史問題の整理が上手く進められれば、日本経済と関わりが深い中韓にも利益をもたらすことになると思うのだが、このまま過去の怨恨や加害・被害の意識に留まる『膠着状態』が続けば、外交関係の緊張や国民感情の悪化から『貿易関係・文化交流・安全保障における不利益』も強まってしまうことになる。
福島第一原発の『吉田調書』の誤報も含めた朝日新聞の誤報問題は『ウェブ時代におけるマスメディアの自社記事の入念な裏取り・資料固め』の必要性を示唆した。マスメディアの持説の物語・思想やオピニオンを客観的事実とはきちんと切り離して報道しなければならないという『ジャーナリズムの基本』を報道人は自覚したい。