宜野湾市の『普天間飛行場』は、市街地上空を米軍の戦闘機や輸送ヘリが頻繁に飛行する日本で最も危険な駐留米軍基地であり、日米軍事同盟の負担が偏って集積している『沖縄県の政治的位置づけの象徴』でもある。
普天間飛行場は自公政権下のアメリカとの交渉によって、普天間よりは県民への危険性が低い『名護市辺野古沖の埋立地』に移設されることが決定していたが、民主党の政権交代時に鳩山由紀夫元首相が『県外移設』を切り出したことで、米軍基地の半永久的な滞在を歓迎しない沖縄県民の本音が噴出した。
鳩山氏が米国との具体的な県外移設交渉を進展させられずに暗礁に乗り上げたことで、『普天間飛行場』は再び辺野古沖移設の前案に差し戻された。だが、いったん県外移設の夢を見せられた沖縄県議と過半の沖縄県民は『県外移設案』に留まり、自民党の沖縄県議にも自民党方針に逆らう県外移設を主張し続けて、除名処分を受ける者が少なからず出ている。
沖縄県知事選では、普天間飛行場の辺野古移設を沖縄県の産業振興・雇用促進の地方交付金と補助金の増額(グアム移転・嘉手納基地返還を含む基地負担の包括的軽減策)によって認める方針であった現職の仲井真弘多(なかいまひろかず)前知事は落選した。
沖縄県民は辺野古移設を主要な争点とした知事選において、仲井真氏ではなく移設反対派の翁長雄志(おながたけし)前那覇市長を選んだが、『地方自治に対する国政の優位・法的な統治の正当化』に対して、沖縄県が単独でどこまで国家安全保障のロードマップ(日米同盟の大前提)に逆らえるのかは定かではない。
自公政権と米軍の主張は『普天間飛行場が担っていた(中国を仮想敵として太平洋の海域を範囲とする)防衛能力が沖縄県に駐留する必要性』は今後も変わらないとするものであり、国家間の安全保障条約に依拠する日米同盟の大前提と基本方針に対して『沖縄県という一地方自治体』が安全保障政策のロードマップに反対できる権限及び範囲は非常に限られているというものである。
普天間飛行場の辺野古移設に反対する翁長知事や支持者に対しては、市街地上空を戦闘機が飛行する普天間の現状を容認し続けて県民の安全を軽視するのかという批判を投げかけるが、『沖縄県の県土の利用権・住民の意思決定』を軽視して『県外移設の選択肢』を予め放棄する姿勢には問題があるのではないかと思う。
現在は約6割の沖縄県民が辺野古移設反対(県内に普天間基地の規模と機能を保持することに反対)であるが、これが8割でも9割でも中央政府の方針に逆らってはならないとまで言えるのかどうか。
日本全体あるいは戦時の米軍が戦前戦後の歴史において沖縄県に負担させてきた役割や与えた犠牲を考えると、『現状のアドホックな軽減策+地政学的リスクを強調する中国脅威論』だけで、沖縄に大規模な米軍基地(日本の自衛隊基地に変更されてもだが)を半永久的に置き続けることの倫理的是非は問われ続けるだろう。
翁長雄志知事が『辺野古移設に反対する具体的な方策』として報じられているのは、『工事変更の承認申請に対する知事の不承認』と『埋め立て承認・環境アセスメント承認の瑕疵の見直しによる埋め立て許可の知事権限による取消し』であるが、自公政権は『沖縄県という地方自治体及び首長は、国が委託しただけの法定受託業務・承認申請を拒否する権限が元々法的に与えられていない』として頭からその不承認を認めない姿勢を強く示している。
環境アセスメントに基づく辺野古沖の埋め立て許可についても、仲井真前知事が許可申請をいったんは認可した以上、その決定を後任の知事が恣意的に覆すことはできない(環境アセスメント報告書に致命的な環境破壊リスクを指摘する報告はない)としている。
日本政府にはいずれにしても米国との軍事同盟における決定事項を、地方自治体や住民の反対によって覆すという選択肢はほぼないため、翁長知事が仮に不承認や認可取消しなど『国政の既定の安保方針に逆らう意思決定』をした場合には、強制的に地方自治体の首長の権限を押さえ込む行政訴訟を提訴し、行政代執行によって移転工事に着手する構えだが、そこまで強硬に司法権だけで地方や住民の意思を押さえ込めば『沖縄県の不満・不公正の本土(中央政府)に対する鬱積』は更に深刻化するだろう。