輸血用の血液不足と若年層の献血率の低下は長らく指摘され続けているが、今までと同じやり方と宣伝方法では、献血者を増やすことは恐らく困難だろう。
日本の献血は、輸血(血液製剤)が必要な事故・病気になった時にはお互い様という『相互扶助』や少しでも重症(重傷)で生命の危機に陥っている人の力になりたいという『利他精神』に基づくボランティアであり、献血者が得られるメリットは無料の飲食物以外は概ね精神的なものに限られる。
簡易な血液検査を兼ねているとか、献血をしたほうが体調が良くなったように感じるとかいうような個別の動機はあるかもしれないが、『注射・自分の血液の視覚化』にどちらかというとネガティブな印象を持っている人が多い。
そのため、自分から敢えて血液センター・献血ルーム(献血カー・出張献血所含め)にまで足を運んで献血しようとする人は、献血が習慣化している人(定期的な献血をすることが当たり前になっている人)以外には少ないだろう。
献血者を確実に増やす方策は、『無償の献血』を『有償の献血(売血可能な献血)』に転換することだが、日本では献血をはじめ『人間の身体資源(健康状態)』に関わるものを金銭で売買することをタブー視する倫理観は強い。
また、献血は注射針による神経損傷やウイルス感染、血液成分の異常(献血後の長期的慢性的な体調悪化)などの前例もあり、100%安全な医療行為とは言えない側面(原理的に侵襲的医療行為のすべては100%の安全性は有り得ない)もある。
経済的弱者・債務者が半ば強制的に血液を売らされたり、お金目当ての人が短期間に何度も無理な献血を繰り返して健康を害するような問題の発生も懸念されるので、血液を売買可能にする規制緩和をするとしても『本人の意思確認・一定期間内に献血可能な頻度の規制』などは必要だろう。
あるいは、直接的な金銭の授受は『間接的な強制・本人に影響力(債権)を持った第三者の関与』につながる恐れがあるので、『税金・社会保険料の控除(減額)』といった各人の収入に応じた間接的な負担軽減のメリットを献血者に与えるといった方法も考えられる。
相互扶助や利他精神、社会貢献のために自発的に無償で献血することが望ましいという『理想論』はあるが、自分自身の健康状態に問題・不安がなく、日常的に輸血のニーズやリアリティが意識される状況も少ない若年層に『ボランティアとしての献血』を普及させ拡大させていくことは難しい。
親世代が定期的に献血をしているかどうか(子供と一緒に献血ルームに行った経験があるか)、家庭で献血や医療面の互助・貢献の必要性について語るような時間があるかといったことも、献血行動の動機づけには影響していると思うが、学校教育で一定の時間を確保して『献血の必要性・献血された血液の使い道・献血によって救われた生命や当事者の思い』などを周知していくことも一定の効果はあるだろう。
献血に行かない理由として『献血可能な場所にまで行くのが面倒』というのも大きく、人によっては出張献血ルーム(献血カー)などで向こうから勧誘されればしても良い(自分から敢えて行くことはないが向こうからお願いされればしても良い)と思っているので、大勢の健康な人が集まっていて一定の自由時間を費やしているような場に『出張献血ルーム(献血カー)』を積極的に開設するのも良いかもしれない。
献血の有償化(売血)以外で確実な献血者増加の方策としては、会社員・公務員などの定期的な健康診断の血液検査に『献血のオプション』をあらかじめ付け加えておいて、(年齢・健康状態に照らして)無理のない血液採取量を設定した上で、『検査ついでの献血』をお願いするという方法もあるだろう。
現状では、自分が病気にでもならない限り、注射・手術・投薬などの医療行為を意識しない人、できるだけ侵襲的医療とは無縁でありたいと思う人が大半なのだから、定期健診のような誰もが受けるような検査のついでに献血も合わせてしてもらうというように、『休日に敢えて献血する機会を作らなくても献血ができる環境』を準備していくことも効果はあると思う。
他の外来での血液検査でも、『献血のオプション』を医療費減額(血液検査の費用分免除)のメリットなどと抱き合わせにして患者に呼びかければ、『ついでの献血』をしても良いという人は少なからず出てくるだろう。だが、現状では自分から敢えて献血ルームにまで足を運んででも献血をしたいという『自発的な意思決定・明確な献血の同意に基づくボランティア精神』ありきの献血以外の献血(金銭的なインセンティブやついでの献血機会増加による義務感などを感じさせるタイプの献血)は、心理的にも法的にも認められにくいという壁がある。