どんなに魅力的で献身的で優しい異性であっても、『永続的な異性（エロティシズムの客体）としてのアウラ』を伴い続けることはできないわけで、相手との交際・結婚期間が長くなるにつれて『性的なパートナー（興奮する相手）』としての意味合いよりも『情緒的・共同体なパートナー（安心する相手）』としての意味合いが強まりやすい。

毎日、協力して生活しなければならない夫婦が、いつも夜通し行為をしたいほどに興奮していてはメリットよりもデメリットのほうが多いだけである。『家族的な意識』が強まればインセストタブーも相まって性的関心は弱まることになる。身内感が強まると、性行為そのものの違和感や不潔感も強まりやすい（恋人時代の初期には進んでやりたがっていた行為も、いずれは義務的となりやがては不潔感なども感じやすくなる）。

たとえ、憧れの芸能人であっても一般人離れした美人であっても、セックスの機会が増大して日常化すれば、『異性としてのアウラ・魅力』は次第に薄れてゆき、妄想していた時ほどの圧倒的な神聖さや快楽の大きさを感じ取ることができなくなっていくだろう。

単純な身体的快楽だけにこだわるのであれば、リアルのセックスが面倒くさくて疲れるとか、オーラルや冒険的なセックスが汚らしいという心理になる人がでてくるのもそれほどおかしなことではないのだが、『身体的快楽以外の要素・必要性』を感じ取れる人同士がくっついているかどうかで、『性愛の賞味期限・持続性』はかなり可変的になってくる。

日本人は元々リアルの性に対して淡白な民族とされ、中年期以降のスキンシップや性的な交流によって、男女間の絆・愛着を確認し続けるという文化的な素地も弱いため、視点を変えれば昔から『子どもができるまで（配偶者を探すまで）の時期』以外は、草食系男子（性愛のバーチャル志向）が多かったとも言えるのではないかと思う。

あちこちで自由恋愛を謳歌するドンファンのような日本人男性というのも数から言えば少数派であるはずであり、『結婚・生殖と相関しない男女の絆・スキンシップのための性愛』というのは日本人の大半にとってセカンダリーな問題というか、過半は年齢や子育てと共に自然に枯れてゆくものという諦観のうちにあったように思える。

セックスは好きでもいざやるのは面倒臭いとか、AV・サブカルのオナニーのほうが気楽とかいう草食系とされる意見は、『パートナーとの人間関係（恋愛関係）の構築・維持のコスト』を惜しんでいたり、『身体的快楽以外の性の喜び・価値』を感じにくかったり、『パートナーとの性的な相性の悪さ（合意の取りにくさや馴れ合いの強さによる刺激の鈍麻）』があったりするのだろう。そもそも、想像次元の性欲の強さとそれを相手との実際の行為（あるいは相手探し）に移すほどの性欲の強さは、言葉にすれば同じでも全くの別物である。

長期間の交際や生活によって『異性としてのアウラ・性的刺激に関する魅力』は必然に薄れて弱くなっていきやすいが、それに代わる『人間としてのアウラ・共に時間を過ごす者としての魅力』を高められるかどうかで、中高年期以降の男女関係の質と喜び・楽しさは格段に大きく変わってくるだろう。

相手の魅力の中心が性的な要素から大きく外れてきた時に（あまりにも親密で身近過ぎて異性としての目線で見られなくなった時に）、『単なる経済生活上の協力者』か『人生の時間や貴重な体験を共有できる真のパートナー』かが分岐していくとも言えるかもしれないが、後者になれる人というのは『男女関係の内容の質』を高く維持できた人でもある。

この記事は、『草食系男子の増加が言われる現代の性の欲望１：エロティシズムの幻想と異性のアウラ』の続きになっています。