アベノミクスは異次元の金融緩和と公的資金(GPIF)の株式市場への投入、円安誘導によって、官製相場のプチバブルを継続しているが、日本全体の景気実感は『物価上昇・大手以外の給与減』によって少しずつ悪化しているという調査も出てきている。
一方、都市部に行くと目に付く新車・高級車の比率が増えたり、高いレストランや夜の繁華街で羽振りの良さそうな人たちが増えているような景色もあり、アベノミクスは『投資できる元本・知識・意思(リスクテイクできる機会)』を持っている人とそうでない人との格差を段階的に広げている。
株式市場や投信(信託財産)に関係のない大多数の国民にとって、アベノミクスの恩恵はあまり賃金の良くない雇用を増やしたくらいに留まり、輸入品の物価が上がったり、世代間・給与階層間の格差が拡大したり、日本の国家財政が悪化したり、年金積立金の運用失敗のリスクが増したりといったマイナスの影響も小さくない。
外国人買い物客の消費の影響も大きいが、『高級品・レジャー・シーズンのセールなどの売上』は右肩上がりである。こういったものは不要不急の商品であり、基本的には『使っても懐が大きく痛まないカネ』によって大胆に消費される傾向があるが、今、買われているファンドの投信ランキングを見ると『毎月の配当金の大きなREIT(不動産投資信託)・インフラ関連』が上位に来ているのが分かる。
大手の銀行(ネットバンク)のサイトで投信ランキングを見ると、数百億円~数千億円規模の巨大ファンドが並んでいるが、それらの多くが『毎月分配型』であり、メガバンクや信託銀行は数百~数千万円以上の資産を持つような高齢者層にこれらのREITやインフラ関連、インデックス型、ブラジルのレアル建てなどのファンドを相当な規模で営業して売りつけている。
『毎月分配型』は、プロのアナリストや経済評論家の間では、『元本の基準価額』を削ってでも分配するので、値上がり益が期待できないとして余り推奨されないが、ここ数年のREITの上位投信の利回りは20%を超えており、基準価額が1円も上がらなくても毎月分配の定期収入を得たいという人たちが非常に増えていて投資資金が集まり続けている。
投資というと一般的には、どこか特定の企業の株(銘柄)を買う株式投資がイメージされやすいが、個別銘柄の株式投資は『買い時・売り時・利回り』を自己責任で判断しなければならないので、難しくて時間も取られる上に『ハイリスク(人によっては年利100%を超えるような異常なハイリターンを得られることもあるが値動きは激しい)』である。
アベノミクスの大型株のほとんどが値上がりした官製相場であれば、過半数の投資家が儲けることができたが、こんな相場は普通は有り得ない。日本経済は政府のテコ入れがなければ、日経平均が平気で5年でも10年でも横ばい(大手でさえ1~3%程度の配当以外の利益のでない状態)を続ける恐れがあるからである。
素人やちょっと投資経験があるくらいの人だと『個別銘柄の買い時・売り時』を効率的に見分けて利確と損切りを繰り返すことはまずできないと考えたほうが良い。多くはどこかの時点で、損失が勿体なくて売るに売れない塩漬けになる。
投資は損失を出すリスクがあるから、元本が保証された貯蓄・定期が一番安心というのが、平均的な日本人の価値判断だが、デフレ経済では通用するこの判断も、インフレ率が高まれば途端に危険な判断になる。安倍政権はインフレ目標2%を掲げていて円安誘導もしているから、モノ・サービスに対する現金の価値(年利1%程度の定期預金では追いつかない)が段階的に目減りしていくリスクは低くないからである。
ある程度の金融資産を持っている高齢者層が買い溜めているREITやインフラの投資信託は、年金のように毎月の配当金を受け取ることを目的としたものだが、ここ2年ほどは配当金が出ないことがないくらいの高いパフォーマンスを出しており、『年利20%超』という個別銘柄投資でも普通は出せない高い利回りになっている。
10,000円の投資に対して毎月200円程度の配当金が出される人気ファンドがいくつかあるが、これがどれだけのインパクトを持つかは、二桁投資の規模を上げて1,000,000円に対して毎月20,000円(年間24万円)の配当金が出ると考えれば分かるだろう。
定期預金に100万円を預けても、年間3~4千円もつけば多いくらいなのに、『下落・無配リスク』を取っているとはいえそれが24万円の配当金になるインパクトは恐るべきものだ。しかもある程度の金融資産がある人にとって、100万円は無理のない小さな投資単位で、500万も投資すればフルタイムのバイトに近い配当になってくる。
現状ではREITは基準価額がある程度安定しているにも関わらず20%以上の利回りがあり、これで格差が開かないわけがないと言える。無論、世界の不動産市場のバブルが弾けるリスクはあるが、資本主義崩壊とまで言われたリーマンショックでさえ多くのREITは乗り切ってきた、その基準価額を再び上回るほど回復した。
富裕層ならもう一桁は上げて投資してくるので、毎月200,000円以上の配当金(平均的労働所得に相当)を数年にわたって受け取れている人もかなりいるはずだが、こういった人は元本を殆ど減らす事なく毎月20万円以上のキャッシュフローを得ているので、労働所得もあれば丸まま投資・貯蓄に回されて更に格差拡大傾向を助長する。
今、一部の50~60代以上の高齢者が異常なあぶく銭(年金受給者なら年金に配当金がプラスされる)をもっている原因の一端は、信託銀行などから勧められて購入した高利回りの投信が数年間にわたって順調に配当金を出し続けていることにあるだろう。月に数万円以上の臨時収入が定期的に入り続ければ生活水準や消費規模はかなり変わってくるからである。
REITバブルの崩壊で逃げ場を失えば、元本を半分以下まで落とすリスクは常にあるが、さしあたって必要のない資金であれば放っておけば5年もあれば、市場サイクルで投資元本は回復するだろう。
単純計算では現代の不動産投資環境と資本主義社会は、元本1000~2000万円を平均的な労働者の価値に等しいと見なすが、『企業の内部留保と株主優先(労働者軽視のコスト化)・政府の大企業優遇と投資優遇(公的資金投入)・市場の過熱とマネーゲーム・個人ごとの経済の知識と情報・グローバルな投資環境の拡大』によって、現代の格差は開いて貧困・失業は放置されやすくなり、日本やアメリカの政府は再配分・救貧の機能を果たすことから段階的に撤退しているようにも見えるのは心配なところである。