“他人とのコミュニケーション”の面白さ・煩わしさ:共通点がなさそうな相手との雑談の苦手意識

職場で上司や同僚、取引先と『直接の業務以外の雑談(おしゃべり)』をする若者が減っているというが、関係性に合わせてやり取りをする『儀礼的なコミュニケーション機会』が社会から減ってきていることも関係しているだろう。

現代社会は『親密なコミュニケーションを取る範囲』を地域社会の顔見知りからご近所の隣人、近しい血縁者、同居の家族、親しい友人知人、付き合っている恋人などへと縮小するゲゼルシャフト化(利害共同体化)の傾向を示してきた。

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それは『煩わしいムラ社会・儀礼的な人付き合い・噂話が生み出す世間体』から逃れたいという欲望と経済・技術の進歩がシンクロした必然の結果でもある。

ウェブ社会の発達やソーシャルメディアの浸透は、『自分の好きな人とだけコミュニケーションしたい(自分の好みや相性で選んだ相手とだけつながっていたい)』という個人の欲望を技術的に充足させやすくした。『好きでも嫌いでもない相手とのコミュニケーション機会』は限定的となり、『不快で嫌いな相手』はアクセスそのものが禁止(表示そのものがブロック)されたりもする。

お互いの状況や考え、気持ちについて頻繁に会話をする『プライベートな人間関係の範囲』はかなり狭くなり、携帯電話の普及によって『話したい相手』と『話したくない相手』との主観的(好き嫌い)な選別もより技術的に簡単になった。

自分にとって感情的なメリットや関係維持の必要性がないと思える他人と、なぜ話さなければならないのか(なぜ話題をあれこれ考えてあげなければならないのか)、自分がまったく興味のない話題や同意できない旧世代の考え方などをなぜ聞かされなければならないのかという価値観を持つ人もおそらく増えていると思う。

逆に言えば、『自分と合わない相手と余り話さなくても良い環境』が社会に出るまで続いている結果として、『趣味嗜好・ライフスタイルで接点のなさそうな年齢の違う相手』と何を話してどう受け答えすれば良いのか分からないという若者も増えているのかもしれない。

一定以上の世代になると、相手と差しで向かい合っている状況で、何も話題を振らずに話さない(相手についての何らかの興味や気配りを示さない)という『沈黙の重さ』に耐えづらくなってくるので、大抵は何の共通点がなさそうな相手であっても、『天気や季節のイベント・その日のニュースやその地域の話題・(相手が年配の人なら)家族の話・自分が今好きなことやしている活動・読書や映画、スポーツなどコンテンツの話』などを投げかけてみてそこから話題を広げる試みをする。

お互いに共感できるポイントを探して相手の興味を掘り下げようとすれば、次第に会話そのものの面白さも感じられてくるし、相手への親しみもそれなりに湧いてくるものだが、『会話・雑談が下手な人』の特徴としては、『相手が振ってくる話題の腰を折ったり無関心さを表明したりしやすい(相手が話そうとする意欲を奪ってしまったり、自分はあなたとはあまり話したくないというメッセージを間接的に送ってしまう)』ということがあるかもしれない。

普段は相当に話し好きな人であっても、相手の反応が冷ややか(興味がなさそう・返事があまり返ってこない)であれば黙り込んでしまう事も多いわけで、『会話の双方向性』を維持するためには相手の協力もある程度は必要である。自分が話すのが苦手であっても、『相手の話題・感情』を盛り上げるような話す意欲を引き出す返事を意識すれば、雑談や世間話は相手のほうが一方的に楽しんで話してくれることも多い。

一方、現代では仕事は仕事、プライベートはプライベートというデジタルな切り替えの意識から、『職場で親密な人間関係は作りたくない(親しくなってあれこれ私生活を聞かれるのが逆にストレスになる・自分の私生活や内面について知られたり詮索されるのが嫌だ)』ということでわざと話しにくいキャラにしている人もいるだろう。

雑談(私語)が仕事の効率を落としたりサボりにつながるというような厳しい規範意識を持っている人もいて、かつてと比べると『企業の家族型経営の共同体機能』が低下しており(それを社員も望まなくなっており)、『職場の同僚・上司との人間関係』を最低限のものにしておきたい(会社と私生活に境界線をはっきりしたい)という人は増えている。

『世代(年齢)・価値観』が異なっていたり『接点(共通点)』が乏しそうに見えたりする相手とのコミュニケーションは、『どういった反応や応答が返ってくるか分からない』という不確実性や『別に自分は話したい(親しくなりたい)とも思わない』という選好性がある。

職場での雑談(世間話)は、自分の人となり(趣味嗜好・考え方)を知ってもらったり上司・同僚との人間関係を円滑にしたり(顧客から気に入られて指名されたり)という実利的なメリットもあるので、『興味関心を持てない相手とは話さなくても良い(傷つきたくないとか面倒臭いとかいう理由で内面に籠っていて良い)』とは言えない。

『他人とのコミュニケーション』を面白くできる心構えや会話力を培うことで、仕事(社内)の評価が良くなるだけでなく、自分自身の世界観(人や社会を見る目)も広がりやすくはなる。『何時間でも喉がやられるまでおしゃべりしていたい』と仕事そっちのけ(他人の仕事の邪魔)になるくらいに、雑談(私語)があまりに好き過ぎる人もサボタージュの意味で別の問題が生じるが……。