米国の利上げの決定と米国経済の堅実な成長路線・ドル高への転換:好景気を予感する米国市場と不況に喘ぐロシア・新興国

米国FRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長が、リーマンショックの金融危機を挟み、9年半ぶりに政策金利の引き上げに踏み切った。

米国経済の指標が『雇用・所得・物価』において改善傾向を長く示し始めたことから、『異例のゼロ金利』による景気刺激策を終えることを決断したが、世界経済・為替相場の中心にあるアメリカが日本とEUに先駆けて『異例の金融緩和措置』を終えたことは、逆に米国経済の正常化・成長期待としてプラスに評価される。

お金を借りやすくして企業の経営・投資を支援するために、金利なしでお金を貸すというゼロ金利政策は、資本主義経済においては異例の緊急措置(ローンで金利収入がほとんど入らない+預貯金にほとんど利息がつかない)である。だが、近年は先進国の景気停滞からゼロ金利のほうが常態となる異常な様相を呈していた。

政策金利を急激に上げれば景気引き締め・金融縮小のショックが大きすぎるが、イエレン議長はまず年利0.25~0.50%から緩やかに景気動向を見ながら引き上げていくと発言したことから、世界の市場は極めて好意的に反応した。これに『雇用+所得の上昇』が加われば個人の金融資産と購買力が上昇するから、市場全体に大きな消費促進のインパクトを生むこともできる。

政策金利引き上げは、確かにお金を借りにくくする効果があるのだが、雇用と物価と所得が相乗的に上昇する場合には、『各種ローンによる金利収入の増加+預貯金・金融市場の利回りの上昇』があるから、金利がある程度高くなっても住宅・自動車ローンなどの個人消費が活発になれば、企業も個人も以前より景気が良くなる可能性はある。

米国の金利上昇の直接の影響は何といっても『ドル高』であり、アメリカのドルに大量の資金が世界から集中して、基軸通貨ドルの信任を回復させるということだ。金利のつかないドルなら誰も買おうとは思わないが、金利がつくドルなら世界最大の経済・軍事大国であるアメリカのドルを買おうとする人は無数にいる。

その影響として、日本円とユーロが下がり、円安・ユーロ安によって双方の経済圏から輸出品が大量にアメリカに流れ込み、日本とEUの輸出関連産業はアメリカの購買力によってカンフル剤を打たれるだろうが、その副作用として『中国・新興国への投資マネーの米国への大規模還流』には警戒感が必要だ。

チャイナショックが再び起これば、せっかく正常化した米国経済と世界市場に冷水が浴びせかけられるだけでなく、既に経済的・財政的には不況に入っているロシアとブラジルなどの新興経済国の苦境と不満は鬱積するだろう。

特にロシアの急速な景気悪化と原油価格下落の悪影響は、プーチンのシリア内戦やクリミア半島統治における軍事的な独断主義(冒険主義)をナショナルに煽り立てる危険性と表裏一体である。

中東産油国も含めて、経済で勝負できなくなった新興国・軍事独裁国が『反米・反グローバリズムの包囲網』での利害一致で平和秩序が大きく意図的に乱される可能性もあるが、景気回復を堅実に固めていこうとする米国は好況になればなるほど『一人勝ちの慢心』を戒めて『世界経済・国際秩序に果たすべき役割・配慮』を同時に考えていく必要がある。

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