オマル・マティーン容疑者は過去にFBIの聴取を受けIS(イスラム国)の過激思想に影響されたと言われるが現状ではISから指示を受けた形跡はない。同性愛嫌悪・社会憎悪・自暴自棄を根底に持つ国産・ローンウルフ型のテロのようである。
フロリダ州オーランドの銃乱射事件は米国史上最悪の50人の死者を出したが、ゲイ向けナイトクラブの閉鎖空間で連射した為に犠牲が拡大した。ISはマティーンをIS兵士とする声明を出しているが、『米国の既成秩序の破壊』に賛同する思想的傾倒・忠誠はあっても、テロネットワークの直接の指示命令は確認されていない。
オーランド銃乱射事件後、カリフォルニア州サンタモニカでゲイプライドパレードに向かう車内にライフル、大量の弾薬、爆弾の材料を積んでいたジェームズ・ハウエルという20歳の男が逮捕された。テロ計画の供述はないが、米国ではLGBTの権利を認める運動が盛んな一方、テロも辞さない過激な反対や嫌悪も根強くある。
オマル・マティーン容疑者の両親がアフガニスタン出身で、本人がISの過激思想に感化されていたことから、『ISの米国に対するテロ攻撃』の推測がされやすい。だが『過去に同性愛者(ゲイ)のキスに激怒したエピソード』と『ゲイ向けナイトクラブを標的にしたこと』から、ホモフォビアや同性愛憎悪が根底にあるか。
今回の銃乱射事件では、前科・精神疾患がなければ誰でも殺傷能力の高い銃器を合法的に購入・所持できる『銃社会の危険性』が改めて突きつけられた。マティーンは過去に民間軍事会社の警備員として働いていた為、銃器の扱いには慣れていたようだ。LGBT・同性愛憎悪・一神教の道徳などのテーマも浮かぶ事件である。
大統領選への影響としては、民主党のヒラリー・クリントンは『銃規制の強化・性的マイノリティーの差別撤廃』という常識的でリベラルな政策を訴えたが、ドナルド・トランプは米国がイスラム教徒にテロ攻撃を受けたという恣意的ストーリーを語り、『ムスリムの一時入国禁止・アフガニスタン移民の危険性』を強調した。
トランプの世界観は、イスラム教徒をひとまとめにして『潜在的な過激派・テロリスト』と決め付けるもので、トランプが大統領になれば『イスラーム圏との宗教・文化の大衝突』を生みかねない。イスラームは確かに自由民主主義・人権の価値観と相容れない要素を持つが、アラブ全体を敵に回すかの政策は如何に米国でも自滅的だ
100人以上が死傷したフロリダ銃乱射事件が起きても、銃規制反対の全米ライフル協会・武装権支持の保守派の声は根強く、自衛用のライフルの売上が更に上がる。だが犯行に使用されたAR15という自動小銃は、軍用M16を改良した30発の連続射撃が可能な銃で、小部隊を全滅させるような殺傷能力は自衛用として過剰だ。
アメリカの保守派・全米ライフル協会員は、合衆国憲法が認める武装権・革命権及び自衛用の武器の必要性(犯罪・圧制への抵抗力の担保)を盾に、AR15のような自動小銃を民間人でも購入できる環境が好ましいとする(武器は正しい使い方をすれば危険でないとする)が、人間の精神・思想の不安定さを考えれば危険過ぎる。
合衆国憲法修正第二条:規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、市民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない。アメリカ独立革命の建国精神と広大な土地における自衛権、国家による武器独占に対する不信(個人の自由を担保する暴力)が背景にあるが、自動小銃をはじめ殺傷能力に応じた規制強化はすべきだろう。