恵まれた順境にある人がますます利益を固め、厳しい逆境にある人がますます損失を拡大しやすい経験則を行動科学で証明したのが、カーネマンとトヴァルスキーらの『プロスペクト理論』だが、『利益確定・損失回避の傾向』に抗って良い結果を得るのは実際はかなり難しい。株式相場の『まだはもうなり・もうはまだなり』は人生哲学を織り込む。
株式投資ではインサイダーでない限り、誰も特定銘柄の相場における天井(最高値)と底(最安値)を事前に特定できない。『頭(最高値)としっぽ(最安値)はくれてやれ』という格言はその事を意味するが、損する投資家の多くは『まだ上がるの頭の追いかけ=迷い』と『もう下がらないのしっぽの決めつけ=拙速』で失敗する。
『良いこと(利益を得られる事態)が起こった時』に人はリスク回避で失敗しにくく、『悪いこと(損失を被る事態)が起こった時』に人はリスクテイクして失敗しやすいというのは、一般に『貧すれば鈍する』『ギャンブラーは総じて負ける(勝っていればギャンブルを早めに手仕舞いする)』という現実の一断面を示唆する。
『プロスペクト理論』でよく例示される賭けに、『何もしなければ100万円が貰えるが、50%の確率で200万円が貰えるが外れれば0円のくじを引くか=利益の問い』と『何もしなければ100万円の損失、50%の確率で損失帳消しか200万円の損失のくじを引くか=損失の問い』があるが、人はほぼ同じ選択をする。
確率論の期待値で言えば『利益の問い』も『損失の問い』も、賭けをしてもしなくても同じだ。だが利益の問いでは賭けをする人はまずいない、100万円のノーリスクの利益を多くが確定して欲張らないのだ。だが何もしなければ確実に100万円の損失が来る時、人は多くが損失回避の賭けに出て逆に損失が増え、負けが混む。
人生哲学や幸福理論としてもプロスペクト理論は解釈できるが、人は『二つ以上の良いことがある時・既に良いことを一つ持つ時』には、大多数がリスク回避(損失回避)して欲張らないのでそれ以上の不幸・損失が起こらないで済む。逆に、『悪いことが確実に起こる時』には、人は不利な賭けに出てしまい余計ジリ貧になりやすい。
リスク対効果は、複数の選択肢でどちらが良いかを簡単に決められないが、人は『ある程度の満足・安定のある状況』で保守的になりリスク回避するので、『大きな幸福感・満足度』も得られない代わりに『大きな不幸感・損失や挫折』も避けやすくなる。利益確定のターンでそれ以上やそれ以外を求める欲はハイリスクである。