自分だけの登山・訓練ならまだしも、教え子の命を預かる状況では軽率な判断である。悪天候で茶臼岳の往復登山の実技講習を中止はしたが、何もせずに帰る事を忌避する登山者の傾向が事故を招いたか。
遠征登山で遭難事故を起こす原因の一つに『せっかく時間・お金をかけて現地まで来たのに何もできず手ぶらで帰るのは嫌(天気は悪そうだがギリギリ大丈夫)』という物惜しみもある。冬山は特に気象条件が悪ければ撤退が原則だが、『登山で斜面を登らず、麓付近の樹林帯でラッセル訓練なら何とかいける』の見通しが甘かった。
新聞記事の詳細な時系列では、前日午前に既に翌日の『大雪・なだれ注意報』が出ていた。午前2時には積雪2センチで降ってないが、午前6時には積雪24センチ、一晩で大量の雪が降った。わずかな温度上昇で表層雪崩が起こりやすい、上に柔らかい雪が積んだ状況になっていた。スキー場の麓近くでも雪崩は来る。
自然の冬山は危険だが、人工的に圧雪管理されたスキー場なら比較的安全という意識は根強いが、この登山講習が行われた時にはスキー場はシーズンオフで、雪面のチェック・管理の作業は行われていなかっただろう。3月の気温変化と一晩での大雪、当日の吹雪、斜面下のラッセルの条件から、スキー場に出る事も危なかった。
今回の雪崩事故は『大雪・雪崩注意報』が出ていたのに、斜面下のゲレンデでラッセル訓練をしても大丈夫とした判断ミスが大きい。冬山に限らず山・海・川のスポーツや遊びは、注意しても確率的に大怪我・事故死は起こるが。
そもそも論では、色々な場所に出かけて危険なスポーツ・旅にもチャレンジするアクティブな人は、必要以上に外出せず危険な活動には近づかず、大半を家の中でのんびり過ごすのが好きなインドア派の人より『大怪我・障害・事故死のリスク』は高まる。主観的な満足・達成感もあり、リスクだけでどう生きるべきかは語れないが。
1960~70年代の登山ブームの時には、今より危険なロッククライミング(岩壁・氷壁登攀)やテント泊の雪山縦走登山をする登山部の若者が多く、毎年多くの学生・生徒が遭難・滑落・低体温で山で死んでいた。『登山部に入ると親が泣く』と標語めいた言葉もあったくらいで、挑戦要素のある登山はリスクゼロにはならない。
雪の残る山も(春山は逆に雪面が柔くなり温度上昇で雪崩リスクが上がる)、知識・技術・慎重で安全確保はできるが、雪・氷が変化する不安定な足場を作る以上、何回登っても絶対に怪我もしないし死なないリスクゼロの登山の保証はできない。雪山・岩場・道具を使う登攀・テント泊縦走などは一定のリスクを織り込んでいる。
ただ挑戦要素の薄い慎重な判断をするアウトドアの遊びなら、よほどの不運に見舞われない限りは死ぬことまではないはずだ。登山なら雪のない季節に登山道を辿って日帰りできる山(危険な岩壁登攀なし)に、朝早くから登るのであれば健康な人ならまず無事に下山できる。海・川も浅い場所に浸かって遊ぶなら溺れはしない。
ただ登山にしても海水浴(海・川の泳ぎ)にしても、アウトドアの遊びは上達すると『今の自分の実力・体力で行ける限界』までやりたくなってしまうのはある。一切危険を感じない近場の山に登っても面白くないの感情が、高山・雪山・岩壁などより体力・技術・経験・度胸がいる場所に向かわせ、自発的にリスクを高めやすい。
過去の著名な登山家・冒険家の多くが30?40代で遭難死しているが、結局、『過去に登った山・達成したテーマ』よりも難易度の高いチャレンジをしたいという衝動的欲求に打ち勝てず、運良く困難な状況を切り抜けても、遭難して死ぬまで次の挑戦をやめずに死んでいった所がある……高校生の安全登山訓練とは関係のない話ではあるが。