総合評価 77点/100点
車のサイドミラーを暴走する車にへし折られ、状況が全く分からないまま、フィラデルフィアの街は異常な大混乱に巻き込まれ、軍隊まで出動して瞬時に街は厳戒体制に置かれた。同様の現象はアメリカ全土で勃発、世界の他の都市も次々に原因不明の感染症に冒されて機能を停止する。狂犬病にも似たゾンビ化の感染症のパンデミックによって、人類は絶滅の危機に瀕した。
『冒頭の掴み』は非常にスリリングで期待感を煽るし、『大都市のパニック』の映像表現は臨場感のある恐怖と混乱を上手く表現しているが、いわゆる『ゾンビ映画』のグローバルな現代版といったストーリーで使い古された観はある。ゾンビの外観や動きの表現は過去の作品よりも格段に進歩しているし、『バイオハザード』ほどゲームらしい冒険物語に偏ったものではなく、人間に襲いかかる『俊敏で足の速いゾンビ』というのが今までのゾンビとはちょっと違った設定になっている。
しかし、アメリカ人は生者が理性を失って本能(食欲)に支配された『動く死体』になるという『ゾンビ映画』が本当に好きだなと思う。海外ドラマの『ウォーキング・デッド』などもヒットしているが、こちらは『親しい家族がゾンビになる悲哀・理性を失った人間の浅ましさ(尊厳の喪失)』のようなものをテーマにしており、ゾンビになった愛する者を殺さなければならない極限状況の葛藤を描いているので、心情表現の上での新しさはあると思うが。
感染症対策において世界各地での経験がある元国連職員のジェリー・レイン(ブラッド・ピット)が、『Z』と呼ばれるゾンビ化する感染症の謎を解明するために、当初発生源と見られていた『在韓米軍基地』に派遣されるのだが、基地も既に少数の精鋭部隊を残してゾンビに占領されつつあった。
独裁国家の北朝鮮では、人民全員の歯を予防的に抜き取って感染拡大を抑止したという『ブラックジョーク』もそこで織り交ぜたりしている。在韓米軍基地に到着するやいなやゾンビに襲われて、『気鋭の天才ウイルス学者』が一人で勝手にパニックを起こして転倒、そこで銃が暴発して死亡する(その前にジェリーが注意していたにも関わらずあまりに臆病過ぎて自滅する…)というのもお笑い的な要素ではあるかもしれない。
映像面の最大の見せ場は『イスラエルの高い壁』とそれをよじ登ってくるゾンビの群れという予告編で示されていた場面である。
これもイスラム教徒達の集団が『私たちは偉大な神アラーの恩恵とこの巨大な壁によって完全に救済されたのだ』というような事を大声で叫んで興奮、そこに礼拝時間をお知らせするアザーンの放送が流れて、音に過敏な大量無数のゾンビが刺激されてしまい自分たちでゾンビの高い塔を作って乗り込んでくるというシュールな自業自得の展開になっている。
イスラエルは遂にゾンビの襲撃を通常兵器で防ぐことができないと判断して戦闘機を飛ばす、ミサイル攻撃あるいは核攻撃で無数に溢れ出してくるゾンビを国民と一緒に全滅させる最終手段を敢行した。
最後の場面でもウイルスの正体が何なのかの謎は放置されたままで終わるのは物足りないが、『ゾンビに対抗できる手段=ゾンビが人間を認識できなくなる方法』というのも、『自然の本能は致命的疾患(有害な保菌者)を回避する』というロジックに基づくものでをそれほど意外なものではなかった。現代的なクリアで臨場感のある映像の完成度は高いし、冒頭の謎の提示のスピード感はあるので、エンターテイメントとしてはまずまず楽しめる作品だとは思う。