時間の実在は科学でも証明できないが、人間や生物の『老化・寿命』は時間の実在をエントロピー増大で間接的に示す。『若さ・美』は食うに困らない豊かな社会で最も強い執着対象になり得るが、どんな美人も老い=時間経過の侵襲の前には抗いきれない。
豊かな生活、美と周囲の承認、若さと健康があれば、『こんな状態が永続すればいいのに』と思うかもしれないが中年期以降にしがみつけば煩悩の炎に焼かれる。古代の秦の始皇帝や摂関家の藤原氏、エジプトのファラオも、権財力を駆使し『不老不死・死後の権力・極楽浄土』を渇望し『止まらぬ老い・衰亡』に抗ったが死んだ。
若さと健康の持続にこだわる人類は、文明社会の防御と豊かさを高めるにつれ、『自己愛』を強め『生殖力』を低下させている。SFでは文明と生命工学の進歩で『人の超長寿化・病気と老いの駆逐・生存圧力低下』を進めた先に、『世代交代なき人口減少・人類衰退』が描かれるプロットも多い、現代の先進国の価値観も近づく。
人間が若さ・美・健康をいつまでも維持する個体として完全な生物(半永久機関)であったら、子孫継続の本能的欲求は相当に落ちるだろう。ヒトは有限かつ不完全でいつか老いて死ぬからこそ『遺伝子保存・世代交代』が起こる面は強い、老い・衰退は嫌なものだが『寿命・現役』を自然に諦めさせる生命の仕組みだ…
アンチエイジングや寿命延長の生命工学的技術が極端に進歩すれば、ビル・ゲイツとか孫正義とかの破格の大富豪だけが何百歳も生きるようになって、今は老い・寿命を『生物の自然な運命で仕方ない』と言っている庶民も『生命時間・若さの期間の富による格差は容認できない』の不満・反発はやはり起きるはずだ。
不可能と分かっていて結果平等になっているから問題は起こらないが、技術的に可能になり一部の人達だけしかその恩恵に預かれない不平等が認識されるようになったら、現代の先進国における『高度先進医療を受けられる機会格差』のような問題が起こる。時間の圧力と死の運命は、人の格差を無化する平等性を担保してもいる。