アドルフ・ヒトラーとナチスドイツは結果が『悪』であっただけなのか?:麻生太郎副総理のヒトラー関連の失言(撤回済)の考察

麻生太郎氏はナチスやヒトラーが歴史的に体現した『功利的かつ熱狂的な全体主義・総統崇拝・弱者切捨て』について、人権を無視してでもドイツ強大化の結果を出したんだと肯定的に見ている節はあるが…

麻生氏、ヒトラー巡る発言を撤回 「誤解招き遺憾」

ナチスドイツやアドルフ・ヒトラーは、ヨーロッパとユダヤにおける『世界史上の絶対悪』の位置づけにあるが、一方でナチスやヒトラーの関連書籍・関連作品は内容は色々だが根強い人気があり、『ネオナチ・ナチス賛美』でなくても『功利的・機能的かつ熱狂的・野心的な全体主義』は人の心を酔わせる誘惑力は持っている。

ナチスの軍服・意匠・ハーケンクロイツを公の場で身にまとうこと、コスプレやファッションであっても著名人がそのデザインを用いることは、国際的にバッシングされるが、それはナチスが歴史的な絶対悪とされているだけでなく、ナチスの軍服や鉤十字のデザインと秩序の感覚がどこか人の意識を惹きつけるからもある。

アドルフ・ヒトラーというナチスドイツに絶対権力者として君臨した個人にしても、チャップリンが独裁者でコメディ化したり、戦後に欧米諸国が極悪人・狂気の人非人として宣伝を繰り返したが、ある種の『カリスマ的指導者・扇動演説の天才』であった事実は否定しがたいものとしてある。情勢と魅力がなければ権力集中は難しい。

ある時代背景・生活状況・心理状態に追い込まれた民族・国民が聞いたり読んだりすれば、ヒトラーの扇動的な文書・野心的な演説は非常に誘惑的だった。『偉大な我々を屈辱と貧苦に追い込んだのは寄生するユダヤ人だ』『我々アーリア人は世界で最高の力を持つ民族である』という悪意・憎悪・自尊を結集させ暴力を噴出させた。

日本に置き換えれば、過激な右派に『偉大な我々を屈辱と貧苦に追い込んだのは混入した在日朝鮮人だ』『我々日本人は世界で最も優秀な民族である』といった扇動的な演説・文書を真実であり説得力がある、そういった政治方針に賛成したい人が今の日本でもゼロだとは限らない。それがナチス流の国民統合手法の怖さである。

ヒトラーとナチスについて麻生氏は『ナチスの手口』の表現を使って撤回に追い込まれた一件もあるが、ナチスの手口というのは自国・自民族が劣勢・衰退に追い込まれて自尊心も落ち込んでいる時に、『我々をここまで惨めにしたのはあいつらである』という仮想敵への憎悪・差別の集中を行うことで自尊心を強めることである。

ナチスドイツの政治体制と国力強化の源泉の多くは『公共事業・公務員増・軍事戦略』によるものだが、国家財政や生産力・軍事力の妨げとなるコストを排除する部分で『人権無視・優生思想に基づく遺伝的社会的弱者の切り捨て』を容赦なく行い、ユダヤ人については『無根拠に生存権のない劣等人種』と決めつけて大量虐殺した。

麻生氏はナチの結果がダメだといっているが、現実にはナチスは『ドイツの領土拡大・国富増大・雇用増加・兵力増強・外国抑圧の結果』を出したからこそ、ベルサイユ体制の賠償金と制裁で貧苦・屈辱に落とし込まれていたドイツ国民を勇気づけ熱狂させ、ハイルヒトラーのローマ式敬礼をして帝国野心にコミットする者が出たのだ。

ナチスは国家・国民を豊かにして発展させるという暫時の結果を出したが、アーリア人至上主義とユダヤ人差別主義を掲げてドイツ帝国さえ良ければいい(ドイツ人の中でも健康・正常でナチス支持の者だけが報われるべき)というその独善的な動機と弱者に生存権がない(異民族の人権は軽視)とする世界観が間違っていたのだろう。

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