2017年ノーベル文学賞にカズオ・イシグロ氏、 村上春樹の作風・評価とノーベル文学賞の可能性

○ノーベル文学賞は「一般人好みのエンタメ性のある作家作品」は選ばれにくいが、村上春樹は「現実(労働・家族)のみに立脚できなくなった現代人の自己愛・自己拡散・幻想と歴史」を描く作家だ。

【ノーベル文学賞】村上春樹さん、狂騒10年以上…果たして今年は? (http://mixi.at/af0Jddq)

村上春樹の物語には平均的なサラリーマンや家庭人は登場しない。「ノルウェイの森」「騎士団長殺し」「1Q84」の系譜は「学生・金持ちの自殺・セックス・精神病・画家・趣味人・成功した隠棲者・新興宗教・娼婦・殺し屋」などのキーワードを持つが、現代人の普遍的な欲望と挫折(自己拡散)を対にした幻想物語と見れる。

村上春樹は国家・文化・世代を超えた幻想物語の名手だが、その幻想の中心に「現代社会が抱える問題・病理・自己愛(労働・生活・家族に専念できない観念の現代人)」とつながっている。世界文学として普遍性があるかは見方によるが、享楽・退廃の恐ろしい場から生活・日常に戻ろうとする足掻きが一定の人に響くのだろう。

その意味では、村上春樹という個人そのものが、近現代の労働者文化や家庭生活・子供に上手く適応できなかった生き方をしてきたという見方もできるのだが、村上氏の「ストイックな執筆生活・運動習慣(マラソン)」というのは文学者であると同時に生き方における求道者(格好はいいがノーマルではないの意味も含め)でもある。

○村上春樹ではなくカズオ・イシグロがノーベル賞受賞。受賞理由の「我々が世界とつながるという幻想的な感覚、その深淵を、偉大な感情の力をもって明らかにした」は、村上春樹の作風とも一致するので再び受賞は遠のいたかもしれない。

2017年ノーベル文学賞にカズオ・イシグロ氏 日本生まれの英国人作家(http://mixi.at/agd4u8u)

ノーベル文学賞の傾向として「評価の固まらない若手作家・大衆が好む商業作家・直接に面白いエンタメ作品」は受賞しづらい。カズオ・イシグロは村上春樹と作品のテーマ性こそ似通ったものはあるが、基本的に商業作家ではなく読者層はより狭い。英国文学の伝統を汲み日系なのにネイティブを超える英語レトリックを駆使する。

村上春樹は確かに世界的に非常に多い読者層を獲得している作家だが、「コンテンポラリーなテーマ」や「過剰なエロティシズム・少女の形態美などの表現」が文学者の評価の固定化を妨げているという見方もできる。カズオ・イシグロも臓器提供用のクローン育成を題材にした「わたしを離さないで」などは、謎解きにも似たエンタメ色は濃いかったけれど。

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