事前予測の通りに「自民圧勝」に終わった衆議院選挙の雑感

衆院選で衆議院議員465議席の政党別の獲得議席数が以下のように確定した。

自民……284

公明……29

自公連立……313(衆院議員の3分の2以上で改憲発議が可能な議席数確保)

維新……11

立憲民主……55

希望……50

共産……12

社民……2

無所属……22

台風の中、投票だけはしてきたが、「改憲・北朝鮮問題・消費税増税・幼児教育の無償化・原発政策」などの争点はあったものの、安保・市場・株価・景気(雇用)からの猛烈な追い風が吹いており、自公政権が勝つ結果は見えていた衆院選でもあった。

株式市場が史上初の15連騰だが、これは日本の景気や大企業の業績が良いというだけではなく(人口減による若年雇用の需要急増という逆ボーナスもあるので長期継続はしないとしても、ここ数年は経済指標ではやはり景気・雇用は良いと判断せざるを得ない)、世界的な資源安・投資熱・景気サイクルを材料とする「世界同時好況(アメリカもEUも新興国も景気は良い)」の追い風である。

「北朝鮮の危機の煽り」と「世界同時好況の市場の浮かれ騒ぎ」が自公政権にとってまたとない選挙必勝のタイミングを用意したとも言えるが、安倍首相はその意味では運にも恵まれた。

小選挙区制度そのものが、大政党に有利な選挙制度であり、1000票未満の僅差で敗れても議席は取れないので、各地で分散した有権者の投票が議席に結びつかない「死票」が非常に多くなる。

全体の得票率だけで見るならば、自民党と立憲民主党は議席が実際の支持率よりも多すぎであり、希望の党は逆に各地の選挙区で相当な投票数は得たものの、自民候補との一騎打ちに敗れて(刺客候補ではない僅差脱落の死票候補で返り討ちを食らう)死票を積み上げた。

民進党が前原誠司代表の拙速な希望の党への合流判断(看板架け替え)によって空中分解したため、本来はいくつかの選挙区において「希望+立憲民主の反自民の得票」で何人かは自民党候補を敗れていたはずなのに、戦力分散によって取りこぼしを極端に増やした。

総得票数を希望と立憲で分散してしまい(あるいは民進党支持層で希望を嫌う層が入れてくれずに)、自公の候補に有利な戦況を敢えて作る形にもなった。前原代表は敗戦後は今度は選挙で旨みを得られなかった小池氏との連携を解消するような発言をして、定見がなくあっちに行ったりこっちに行ったりで党の代表としての信頼を完全に失っている。

小池百合子都知事の希望の党の急激な失速は、「小池新党なのに小池百合子自身が出馬しなかったこと(都知事職を中途で投げ出せば非難に耐えられない恐れが強いが)」が大きく、「改憲政党ならオーソドックスな自民党のほうがいいという層」がやはり多かった。

結局のところ、小池百合子氏も前原誠司氏も「自民党にいてもおかしくない政策・理念の政治家」であるため、「自民と希望の決定的な違い」が見当たらない以上、「消費税増税を遅らせてくれる希望の方がいい」という選択(その選択がないなら改憲志向で政権担当の実績もある自民でも良いわけだから)をする保守層・改憲支持層が少なかったのだろう。

小池百合子の「排除の論理」で支持を失ったというのも決定的な理由とは思えず、元々、希望の党の看板を掲げて元民進党の議員が合流した時点で、旧民進党の支持層からは切られた形になっていたし、「新しい風」といって前原誠司・若狭勝らが浮かれていても「自民党の風と消費税増税時期以外に具体的に何が違うのか(しがらみのない政治というのはどんな政治で有権者にどんなメリットがあるのか)」が見えていなかったわけである。

枝野幸男氏の立憲民主党のほうに「リベラル派の票=旧民進支持層・反自民層・反改憲層の票」が大きく流れて、前原氏と小池氏の希望の党は「自民支持層・民進支持層」のいずれの側からも票が流れにくくなり、自民候補を一騎打ちで倒すだけの票の集中ができなかった。

自民党は復古主義的な歴史認識、国家主義・民族主義の個人抑圧的なイデオロギー、伝統文化や現実主義に名を借りた人権侵害問題(男女差別問題)などの放置、大企業・中流階層以上に有利な政策形成はあり、リベラルの人たちから見れば自民党というのは「権力権威・利権としがらみ・国民教育・改憲で個人の人権や自由を抑圧しがちな政党集団(戦後日本の人権尊重の流れを復古的に切断して国家や民族の集団の下に個人を統制しようとする政党)」という認識になり、絶対に投票したくない政党にはなる。

だが一般社会では「保守対リベラルの対立軸」を、知識・思想信念・判断のレベルで明確に意識して投票している有権者は今ではかなり少ないのが現実だろう。

自民党に投票する人でも大半は、「うちは昔から自民党で力のある与党贔屓だから(自民党の議員さんとも知り合いだから)・候補者が誠実そうで有名だから・野党は反対と批判ばかりでダメだから・最近は景気が良くて保有株も値上がりしているから・大企業や役所で働いているから今のまま国が安定してほしいから・北朝鮮の脅威に安倍さんが対応してくれそうだから・中国や韓国が嫌いだから(自公政権の方が中韓に厳しい対応をしてくれそうだから)・リベラルや共産主義は日本人のための政治ではないイメージがあるから」などのイデオロギーとはあまり関係のないイメージや投票先の習慣化に従って投票していることが多い。

公明党なら細かい政策の是々非々は知らないが、「私と家族は創価学会員だから」という理由だけの人だって多いはずである。

民進党は解散時勢力が88議席だったので、立憲民主に元民進党の無所属(18)も含めれば73で微減、希望の党の50まで含めれば123で議席拡大だが、希望の党は立憲民主よりも自民への協力の可能性が高いだろう。共産党がリベラルかは議論があるが、格差是正や貧困対策をいくら叫んでも大幅に議席を減らしたという意味では、小選挙区制度の特性も踏まえた自民党への追い風がやはり強かったと見るしかないだろう。

自民は得票率48.2%で全289小選挙区のうち、75.4%に当たる218議席を獲得したが、これは前回衆院選とほぼ同じと報じられており、全国の得票をまとめればかなりの数になる「弱小政党の候補者」をすべて切り捨て(遠からず弱小政党を消滅に追い込み)、「二位以下の候補者の得票」を僅差でもすべて死票にしてしまう民意を過度に単純化(多様な民意のあり方を結果から見えなく)する小選挙区制度の原理的な問題を解決する必要もあるだろう。

だが小選挙区制度は、共和党・民主党の二大政党以外の政党の候補者が議席をほとんど取れなくなっているアメリカを模範として導入された選挙制度なので、有権者が死票を嫌って、一位当選しそうな大政党の候補者に投票するようになる心理を織り込んでいる。

「比例代表制・中選挙区制(広めの一選挙区から複数人を当選させる)」のような民意をできるだけ忠実に議席に配分するような制度を導入して議席数を増やすと、日本では二大政党制や政権与党の絶対安定多数の獲得は困難なため、敢えて小選挙区制にして少数意見に振り回されないようにしている現状は変えてこないだろう。

小選挙区制に加えて、憲法改正で参院を無くして「一院制」にしようなどという議論があるが、民意の多様性を排除して(投票の過半を死票にして)少数意見に全く耳を傾けないで済む絶対多数確保の長期政権を準備しやすくする改革であり、基本的には「政権交代困難な制度」や「反対意見を述べる議員そのものが議会にほとんどいない政治」になりかねない。

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