『人類の共通祖先が同一種である』と『複数の猿人・原人の種が同一種である』の違い:人類進化の仮説

このニュースにある人類学におけるヒトの進化プロセスの仮説について、日本人と外国人の遠い祖先が同一だったのか否かといった意見も見られますが、日本人とアジア人(中国人・朝鮮人)の違いどころか、モンゴロイドとコーカソイド(白人)とネグロイド(黒人)は同じ“ホモ・サピエンス・サピエンス”という霊長類の種ですから、当然、その共通祖先を遡っていけば同じ猿人、類人猿の種に行き着きます。

「ヒト祖先は同一種」の新説…進化過程見直しも

『人種(肌の色の違い)』という概念も現代の人類学では明確な境界線が引けない(黒色から白色への無限のバリエーションと混血がある)という判断になってきていますし、『民族・国民』という概念になるともはや生物学的な分類の意味あいは殆どないわけですから、日本人とどこかの外国人の祖先が異なる種であるはずはありません。生物学的には、外見が極めて類似しておりDNAの塩基配列が同じで、相互に交配(生殖)も可能な個体は同一種と見なされます。

『人類の共通祖先が同一種である』というのは、グルジア国立博物館や米ハーバード大の国際研究チームが出した『原人同一種の仮説』とは全く関係がないもので、進化論・遺伝子生物学の初期から自明の前提になっています(日本人と中国人とアメリカ人の祖先が共通ではなく生物学的な別種だったなどの仮説は検討の余地そのものがないとされます)。

人類全体の共通祖先となる脳が巨大化して二足歩行が可能な骨格を持ち始めた類人猿は、約800~500万年前のいずれかの時期に、アフリカ大陸東部のサバンナ地帯に出現したと化石史料などから推測されています。

約400~300万年前の猿人……アウストラロピテクスは、ヒト科の霊長類ですがヒト属ではなくその名前が『南の猿』を意味するように、外見的にも機能的にもまだ類人猿の猿に近い現生人類よりも小柄な動物だったとされます。打製の石器(道具)を用いたホモ・ハビリスも猿人に含められます。

約60~50万年前の原人……北京原人・ジャワ原人などのホモ・エレクトゥスと呼ばれる人類で、この段階からヒト属にグルーピングされます。脳がより大きくなって直立二足歩行が完成し、石器の道具に加えて『火』を用いることができるようになったと推測されています。

約50~30万年前の旧人……ホモ・ネアンデルターレンシスのネアンデルタール人として知られる。ネアンデルタール人は、現生人類との直接の血統関係はなく、現生人類との生存競争(あるいは生存と無関係な権力・縄張りのための戦争)に敗れて滅ぼされた別の種と想定されている。死者に花を手向けた痕跡が認められるとも言われ、『葬儀・死の観念』がこの時代に人類に持たれるようになったのではないかともされる。

約20万年前~現在の新人……ホモ・サピエンス・サピエンスと呼ばれる現生人類であり、スペインのアルタミラやフランスのラスコーに象徴的・呪術的な壁画を残したクロマニョン人として知られる。

今まで、別種と考えられていた猿人のホモ・ハビリス(道具を使うヒト)と原人のホモ・エレクトゥス(直立歩行するヒト)は同一種なのではないかという仮説が、『複数の猿人・原人の種が同一種である』とするこのニュースの仮説になっていますが、厳密に考えれば今まで発掘されている猿人だとか原人だとかの何種類かの化石が『現生人類(ホモ・サピエンス・サピエンス)の私たちの直系の祖先であるという証拠』もありません。

http://www.eonet.ne.jp/~libell/jinrui.html

このサイトにあるヒトの種の進化図から考えることができるように、ホモ・サピエンス・サピエンス(今の人類)と似た外見や骨格、脳容積を持ったヒト属の動物は、それぞれの進化の枝の先で現生人類にまではつながらずに途中で絶滅してしまったという見方も有力だからです。

数百万年前には、人類の共通祖先のサルから分岐した比較的大型の類人猿(ヒトの祖先になる可能性を持った種)も数種類はいたと推測されるのであり、それぞれの類人猿が進化を遂げていく中で、猿人段階・原人段階・旧人段階で『進化の袋小路・自然選択の圧力』に晒されて絶滅してしまった種もあると考えられるからです。

化石となって発掘されているアウストラロピテクスやホモ・ハビリス、ホモ・エレクトゥスが、現生人類にまで続かずに進化の枝の途中で絶滅してしまった種である可能性もあるわけです。旧人のネアンデルタール人のように現生人類やその祖先種から戦いで滅ぼされた別種もいることを考えれば、数十万年や数百万年前の『ヒトに外見的に似た化石標本』が、果たして今にまでつながっている人類の共通祖先なのか、その共通祖先になり損ねて途中の枝で絶滅した種なのかを正しく識別することはなかなか難しいようにも思います。