『女性手帳』を配布するという少子化対策の検討について様々な意見が出ていたが、日本政府は出生数が減る少子化を政治的・社会的問題と捉え、その原因を『晩婚化・未婚化・若者の平均所得低下(雇用の不安定化や雇用からの脱落)・待機児童の多さ(保育所の少なさ)』などに求めているようだ。
20~30代の未婚率の上昇を受けて、結婚する若者(出産適齢期の女性の婚姻)の減少が少子化の一因であり、結婚する若者を支援して増やすことで少子化が多少なりとも改善するという前提に立っている。
結婚しない若い人にも、結婚をしたくて今の時点で相手もいるのに、経済的不安の理由によって結婚できない人はいる。そういった人を経済的に支援することには、婚姻数を引き上げる効果があるのだが、『結婚したいが相手を見つけられない人』や『相手がいるか見つけることはできるが結婚はしたくない人』に対しては、経済的支援のみによって結婚数を増やすことは期待できないだろう。
結婚は欧米社会では『終わったコンテンツ(=オワコン)』であり、今後かつてのような『皆婚』が当たり前の社会は戻ってこないという記事があったが、欧米では確かに『事実婚・民事連帯契約(仏のPACSに代表される婚姻より制約の少ない制度)・シングルマザー(シングルファザー)の増加』によって法的な婚姻制度を利用する若者の比率は劇的に減っている。
北欧では、複数の異性との間にそれぞれ子を儲けても籍を入れないシングルマザーのほうが多く、父親が次々に変わるので子供の自己アイデンティティ形成に混乱を来すことがあるという『夫婦間の拘束が殆どない関係性・伝統的家族の消失と福祉依存』のメンタル面での社会問題化が議論されていたりもする。
結婚は終わったコンテンツ(制度・思想・価値観)なのか?と言われると、少なくとも日本においては『平均所得前後の収入があるサラリーパーソン』にとっては終わったコンテンツではなく、一定以上の規模の企業・公務員の形態で働いている人の婚姻率は有意にそれ以外の雇用形態・所得水準よりも高くなっていて、大半が30代半ばくらいまでには今でも結婚している。
『婚姻率と雇用形態・所得水準』の相関は兼ねてから指摘されているが、若くて所得が極端に高い人(選択の自由度がある人)と低所得層・非正規雇用・アルバイト・無職などの人(選択の自由度が低い人)は婚姻率が低くなっている。
お金がなければ自立的な家庭生活を継続することはできないので(実家が裕福で親負担の二世帯住宅に住んだり継続的に支援されるなどの特別な事例は除き)当たり前といえば当たり前の結果であるが、問題は自立的な家庭生活を営めない水準の所得が続くような仕事が増えていたり、(昇給昇格の見込めない)低所得の単純労働を回避して自発的失業・無業化する層が増えていたりすることにある。
30代男性の年収別の婚姻率・交際経験率
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2451.html
「所得が低いと結婚ができない」傾向をグラフ化してみる
http://www.garbagenews.net/archives/683267.html
このデータだけを見ると、日本では所得(お金)さえ増えれば結婚率は高まるはずという予測が成り立ちそうな気もするが、結局のところ、日本の婚姻率の低下は『男性雇用の相対的な地盤沈下』と『女性雇用の相対的な底上げ(就労率・平均所得の微増)』と見ることができる部分がある。