映画『ジャッジ!』の感想

総合評価 78点/100点

国際広告祭の何でもありの票取り合戦と“できない男+できる女”のツンデレ系の恋愛をテーマにしたコメディ映画で、妻夫木聡のカマキリのポーズや丸暗記の英会話戦術を初めとした馬鹿らしい演技が記憶に残る。北川景子は『謎解きはディナーの後で』とかぶるような攻撃系のキャラだが、何でもありが前提の投票合戦で不正をしようとしない妻夫木演じる太田喜一郎の糞真面目さに、いらつきながらもバックアップする。

大手広告代理店に勤めるCMプランナーの太田喜一郎(妻夫木聡)は、要領が悪くてお人好し。クリエイティブな仕事に憧れて広告業界に入ったものの、いまいち仕事も上手くいかない、調子が良くて女好きなノリノリの上司・大滝一郎(豊川悦司)からはいつも良いように使われている。

大滝一郎が自信満々で制作したエースコックのきつねうどんのCMは、エースコックの責任者から不評できつねをネコにしてくれという無茶なダメだしを食らう。大滝は太田にきつねをネコに見せかけるという無意味な仕事を丸投げし、自分の名前を制作のクレジットから外すように指示する。

仕事も私生活も思い通りに行かず落ち込んでいる太田喜一郎は、空気が読めずに一人だけ除け者にされた合コンの帰りに、地元の初恋の相手と偶然遭遇するが、その子は既に昔馴染みの友人と結婚しており、更に自分だけ同じ場所で停滞しているような疎外感を味わう。太田はその子から貰ったぬいぐるみのキーホルダーを未だにつけ続けていたりする。

接待に出向いた大手ちくわ製造会社の社長とその息子のボンボンから、大滝一郎はボンボンが制作したオヤジギャグを効かせたセンスの悪い『ちくわのCM』をサンタモニカ国際広告祭で優勝させるように依頼される。大滝は映画祭の審査員のメンバーとして招聘されていたのだが、どう見ても優勝できるクオリティではないCMを見て、この審査員の仕事も部下の太田に丸投げして、優勝できなかった失敗の責任を太田に押し付けようと画策する。

ろくにCMを制作したこともなく英会話もほとんどできないのに、いきなり国際広告祭の審査員の仕事を頼まれて狼狽して焦る太田だったが、会社の資料室に籠っている元エリート広告マンで審査員経験もあるおじさん(リリー・フランキー)に、意味不明な英語レッスンを繰り返し受ける。

太田はその英語レッスンで、『エキセントリックなジェスチャー(複雑なペン回し)ありきの3つの文章丸暗記の英会話法+おたくアピール+カマキリの構え』だけ覚えてやっつけ仕事の広告祭に臨む。審査中に英語で説明する能力が追いつかない事柄に対しては、“Silence is golden.”とだけ言ってしばらく黙っておけば後は勝手に外国人が内容を想像してくれるなど、ほとんど実用性がなさそうな英会話だが、自己主張が強い外国人に対してトリッキーな高速ペン回しで注意を引きつけるテクニックは繰り返し用いて結構役立つ。

一人では不安でたまらない太田は、同僚で『できるほうの大田』と呼ばれているギャンブル好きな大田ひかり(北川景子)を、ラスベガスが近くにあってカジノを楽しめるという誘い文句で何とか誘い出して、二人の国際広告祭の珍道中が始まる。

CMプランナーの仕事やCMの品評会をテーマにしているため、前半はエースコック、後半はトヨタの『映画内広告』も同時にできるという電通・博報堂らしい一石二鳥の映画になっているが、それが鼻につくという人もいるかもしれない。広告・マーケティングという業界や職種そのものが、基本的に好き嫌いが大きく分かれるものだし、できるだけ広告を見たくないという人も多い一方、『印象・記憶に残るような面白いCM・好きなタレントが起用されているCM』などには自発的な興味が集まりそれが消費増加の経済効果を生み出す側面もある。

トヨタのCMを持参しているCMプランナーのはるか(鈴木京香)を、太田喜一郎は自分のクビがかかった『ちくわのCM』そっちのけ(トヨタのCMの内容のほうが好きなため)で応援するのだが、大田ひかりがそこに嫉妬したりといった恋愛要素も所々に絡めている。

『不正・賄賂・根回し(できレース)・主催者へのご機嫌取り』が横行する国際広告祭に、本当に自分が好きで良いと思ったCMに投票したいという真っ向勝負を挑む太田とそれを間接支援するひかりというストーリーだが、最終的にトヨタが優勝するというのもスポンサー絡みのできレースではあるわけで、そこも入れ子構造(メタ認知)の笑いを誘うところではあるかも。