AKB48の擬似恋愛を絡めるビジネスモデルにとって『会えるアイドル・距離の近い握手会』は欠かせないものだろうが、数万人単位の参加者がいれば悪意ある異常者が紛れる確率は上がり、セキュリティコスト・時間コストも高くなる。
アイドル襲撃の動機は『恋愛妄想の愛憎半ばの独占欲・自己顕示的な劇場型犯罪』が多いと思われるが、AKB48であれば『みんなが楽しみにしている握手会が中止になる』といった自分以外の他者の楽しみ・喜びを邪魔する動機(秋葉原事件のような自分だけが不幸で面白くないという被害妄想・社会への逆恨み)も想定される。
無差別殺傷事件をはじめとして無関係な他人を殺傷する人の大半は、『自分だけが不幸・惨めで世の中(他者)から不当な処遇を受けているという被害感情』を持っているが、芸能人・著名人を襲撃する事件では『標的者へのある程度の興味関心・売名的な自己顕示欲』も関与しやすいだろう。
AKBやジャニーズの功罪の一つは『アイドルの距離感を身近にしたこと・ライブと関係欲求を融合させたこと』と『音楽の評価軸を擬似恋愛(人物の性的魅力)に傾けすぎたこと・音楽単体での評価や売上を崩壊させたこと』にあるかもだが、CDが売れないネット時代(複製時代・参加型娯楽)ならではのアイドルではある。
日本を含めた東アジア圏の音楽シーンでは特に、『若さとビジュアル(見た目の魅力)ありきのアイドル』がほとんどヒットチャートを独占しているが、日本も『音楽そのものを評価して聞くリスナー』は多くない印象。AKBが出てこなかったとしても、AKB的ジャニーズ的なものが優勢になっていた可能性は小さくないかも。
段階的にCDが売れなくなっていった大きな要因は、無料の音楽が氾濫するインターネットの普及(前ほど稼げないからプロを目指す人も減る)にあると思うが、AKBは特にYouTubeなどで積極的に無料の楽曲・映像を配信して、『複製可能なものからはお金を取らない姿勢』を示した。
だから、AKBがちょっと気になる、よく流れるあの歌を聞いてみたいといった人にとっては、AKBの歌・映像自体は1円も支払うことなく楽しめるもの。AKB商法の原理は『コピー(媒体)は無料・オリジナル(本人)は有料・メディア露出でのプレミア化』という事にあり、コアなファンや広告主から利益を上げる仕組みだ。
AKB商法はデート商法(恋愛商法・キャバクラ商法)みたいであくどいという批判、AKBのような若さ・擬似恋愛ありきの軽薄な音楽が日本のヒットチャートを崩壊させたという不満は多いが、基本的にはAKB48の作品の大半は『無料コンテンツ』に過ぎず、無料だから聞かれる・知られるのネット文化的要素もある。
他のアーティストにとっては、AKBのような『複製可能なものからはお金を取らない姿勢(自分から無料で見られる環境を作る姿勢)』や『握手会・ライブなどと絡めたビジネス』は、今まで売れていたものを売れなくしてしまう妨害的な要素はあっただろう。あらゆる情報を検索可能にしたネットの破壊力も似た所はあったが。