『また来たのかい』という暢気なバイトの返答に無責任・共犯ではないかという皮肉な意見もあるが、自分がアルバイトをしていて、強盗が来た時にどういった言葉・感情を返すかを考えるとなかなか難しい。
難しいというのは、『強盗から危害を加えられそうで怖いという感情』とはまた異なり、『強盗に対して怒る・攻撃するような感情』が自然に湧いてくるか確信が持てない感覚。自分が所有・経営する店舗の売上金とは異なるため、直接の所有権(利益を略奪される感覚)に基づく怒り・憎悪といった感情は自然発生しないだろう。
交渉・説得が通用しないケースで、それ以上の強気の強盗を制圧する姿勢で対応していくなら、『力づくで叩きだすぞ(捕まえるぞ)。痛い目に遭わせるぞ。強盗に来た事を後悔させてやる』など、自分も強盗・チンピラのレベルに立った喧嘩腰の暴言・対抗姿勢に近づくしかない。最終的には暴力の応酬になる可能性含め。
『また来たよ。金ちょうだい』という脱力系・馴れ馴れしい発言に対しては、『ふざけるな、いい加減にしろ』など一喝するか、『またお前かよ、いい加減こんな犯罪やめろよ』などのやや迎合的な説諭になりがち。強盗に対する怒りは『社会正義や秩序感と遵法精神・不正な利益への不満・自分の利益の被害』かに基づくが、通常、強盗などの犯罪者と被害者(犯罪の対象者)の間で、言語によるコミュニケーションを行うという想定・経験が大半の人にはない。
強盗であれば『奪おうとする暴力』と『奪われまいとする暴力』のせめぎ合いはあっても、『怪我したくなければお金下さい』『いや、上げられません。それは犯罪ですから』というやり取りはどうしてもシュールな違和感と不適切さ(ある種のシニカルな笑い)を生んでしまうだろう。
時に強盗窃盗・立てこもり犯などと身の上話までしてしまう被害者もいるが、こういったコミュニケーションも想定外で経験が乏しい為、大半は怒り・攻撃の態度より傾聴・同調に傾きやすく『私的に怒る為の前提』が骨抜きにされやすい。
凶悪犯と被害者は『暴力と暴力の回避のガチなせめぎ合い』になっているべきという前提は強く、その前提が外れて言語的なコミュニケーションが多くなればなるほど、『私的に怒る為の前提』が減りやすい。法律違反・道徳違背など『公的に処罰すべき理由・常識』はあるが、リアルタイムの怒りの基点がずらされる。