「政治」カテゴリーアーカイブ

『農協改革』を推進しようとする自民党の内部対立と農協が果たしてきた役割が通じない時代の到来

農協は農家間の競争原理を抑え、規定の農作物を生産すれば利益が出る買取制度を維持し、銀行がない田舎の金融ネットワーク(農業近代化の融資網)を作ってきた実績がある。

農協が介在する『農家のサラリーマン化・安定収益』が歓迎された時期も長かったが、『農家の高齢化・市場原理(グローバリズム)の圧力』によって、今まで通りの農政や農協依存の農業を続けていける目処が立たなくなってきた。

<農協改革>揺れる自民 選挙実動部隊、無視できず

農協に加入して規定の作物を生産し減反制度も利用すれば、『食いっぱぐれリスク』を回避しやすいメリットは大きかった。当初の殆どの農家は『生産した米・野菜・果物』をどのように市場に流通させるか、価格をどうするかなど『商売のノウハウ』がなかった為、生産以外の部分を丸ごと面倒見てくれる農協は必要だった。

時代は変わり保護された農業は『自力で稼げる競争力』を失い、『農家の後継者不在・高齢化進展・耕作放棄地の増加』によって、日本の農業の持続可能性そのものが危ぶまれている。農業従事者の平均年齢は60歳を超えるが、農地転売の規制など岩盤規制や高齢者の農地へのこだわりによって、農業改革の歩みは遅い。

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橋下徹市長が維新の党代表を辞任:大阪都構想と統一地方選に集中

『維新の党』のポリティカル・コンパスなポジションは、『公的部門の徹底民営化・行財政改革(広義の行政コストの大規模な削減と市場原理の導入)』で築かれたところがある。そのため、橋下徹が『大阪都構想の大規模な行財政改革』を進捗させる実績が出せなければ、維新の党の国政での独自性・政策理念も衰える可能性は高い。

橋下氏、維新代表を辞任 都構想や統一地方選に当面専念

橋下徹市長は『大阪都構想の進捗度合い』を見誤り、『国政進出の時期』が思った以上に遅滞した状況にある。その原因の一つは次世代の党(旧太陽の党)の石原慎太郎や平沼赳夫など高齢の右翼主義者に擦り寄って、維新の党のイメージを古びたものに変えてしまった事にある。時にポピュリズム(大衆迎合主義)と揶揄されながらも、民意を読むに敏できた橋下氏に小さくない誤算が生じてきたように感じる。

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聖人化した戦後日本の天皇と引退できない近代天皇制

討幕の大義名分として『大政奉還』が持ち出され、天皇主権に回帰する『王政復古』によって、近代日本は記紀の日本神話を史実と見なし、天皇を“現人神”とする『神の国』として国民に教育されることになった。

天皇は高天原の神(皇祖の天照大神・天孫降臨のニニギノミコト)の子孫であるという神話によって、日本の永続的な主権者としての歴史的資格を持つとされ、ヤマト王権(近畿政権)の勃興や律令制の古代王朝から歴史を連続的かつ道義的(天皇に忠義であったか否か)に記述する『日本の皇国史観』が広められた。

『太平記』の楠公の七生報国の忠誠心が教えられ、後醍醐帝の建武新政を妨害した足利尊氏は歴史的な大悪人とされ、七度戦場に敗れて屍を晒すとも、七度生まれ変わって再び天皇に粉骨砕身の忠義を尽くすという苛烈な滅私奉公の精神が讃えられた。

近代天皇制における天皇は、西欧のキリスト教を模範とする『日本的な神概念』を目指すと同時に、日本という巨大な家あるいは日本人という大家族を指導して保護するより身近な『家長と赤子の概念』によって認識された。

敗戦までの天皇は国民を統治して軍隊を統帥する権力者であると同時に、国民を我が子のように見なして慈愛を注ぎ、『皇国の一員』としての名誉・尊厳を与える家父長的な権威者(日本神聖化の権威の源泉)としての側面も持っていた。

大日本帝国がアジア進出にあたって掲げた『八紘一宇(世界を一つの屋根の下に覆う)』のスローガンにも現れているように、大日本帝国とは天皇を擬似的な家父長とする巨大な家の拡大運動のプロセスでもあり、運命共同体の家と自分に付与された役割(天皇への忠誠=国防義務)が国民の存在意義をがっちりと抱え込む歴史的・人為的な構造体であった。

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戦後最低の投票率となった衆院選の雑感:自公325議席・共産増、全体の議席配分の変化は乏しいが…

推定投票率が52.32%、有権者の参加意欲が戦後史上最低となった選挙だが、日本の政党政治から実質的に『与野党・政策・イデオロギーの対立軸,無党派層(非組織票)の政党の選択肢』が消えたことを意識させられる選挙でもあった。

この選挙は『有権者の無関心・無気力の反映』という虚しい結末でもあるが、経済政策だけに争点をフォーカスされてしまうと、野党にはまともな経済成長戦略はなく市場経済や為替を軽視する向きも強いので、自公政権が無難な選択肢と映ったのだろう。

これから4年間の衆院議員の任期では、おそらく自民党長期政権が固められるだけでは済まず、『一強多弱+自民補完勢力の迎合』によって政治は(形式的議論を経由しながらも)一方向的に処理されていく可能性が高い。

安倍晋三首相は今までの自公政権とアベノミクスが支持された結果と語るが、『解散の必要性・与野党の対立軸』は曖昧であり、『安倍政権の延長のためありき』の最適な時期に電撃解散に打って出た安倍首相の作戦勝ちではあった。

本来であれば、支持率を大きく落として政権が倒れかねない10%への消費税増税の公約実施を反故にして、三党合意に参加していた自民党がまるで『増税反対派のような仮そめのスタンス』を示し、消費増税ショックによる政権転落の危機をとりあえず回避したのは、政権運営のトリッキーな変化技である。

プライマリーバランスの黒字化や議員数と議員歳費の削減をはじめとする財政再建の公約もいつの間にか後退して、国債増発を継続して議員・国家公務員の給与も増額(回復)させたが、肥大を続ける100兆円以上の一般予算を縮小する努力については触れなくなっている……アベノミクスと成長戦略で二倍、三倍と税収が増えるのであればそれでも良いのだろうが、財政規律を無視した景気刺激と身を切る改革の先延ばしは将来の税負担に転嫁される危険がある。

共産党は議席を積み増しして、安倍政権の暴走にストップをかけると意気込むが、共産党は資本主義経済(市場経済・競争原理)と大企業の利益構造に対して否定の度合いが強すぎるため、国会における反論・牽制の勢力には成り得ても、実質的に政権の一翼を担えるほどのリアル・ポリティクスの思想と理想、経験(一般的国民の信頼度)に欠けることは否めない。

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正規雇用と非正規雇用の賃金格差と『長期メンバーシップ・包括的忠誠契約』の関係

正社員と非正規の差は客観的にどちらが上か測定可能な『売上・技能・知識・資格の差』ではない。入社時の長期メンバーシップと包括的忠誠契約の有無の差である。

城繁幸、やまもといちろう、宮台真司が「非正規格差がカワイソウなら、正社員の待遇下げろ」で一致

正社員と非正規の差が、努力や勉強によって身につけられる『スコア・スキル・キャリア』であるなら、非正規格差は社会問題ではない。なぜなら、受験勉強のように『その時点からの努力・勉強』で、現在の正社員以上のスコアやスキルが身に付けば、立場の互換性があるので『身分的・固定的な格差』ではなくなるからである。

だが言うまでもなく、日本の正社員雇用やキャリア査定(再就職活動)というのは、厳密な意味での『即時的・相対的な能力主義』ではない。どちらかというと『現時点でのスキル・能力・スコア』より『今までの職歴における勤勉・忠誠度』のほうが評価される割合は高く、客観的なスキル・実務の高低だけを見る会社は少ない。

高度経済成長期には『社内業務に特化したスペシャリスト・ゼネラリスト』が社内の実地教育で育成され、成長持続が前提だった会社の側も『定年まで辞めない勤勉な人材』を重宝していた。正社員の雇用と賞与が定年まで家族的経営体質で守られていたのは、従業員の為もあるが、それ以上に会社の為でもあった事に留意すべきだろう。

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麻生太郎財務相の発言、『産まない方が問題だ』の波紋と現代の先進国における少子化の要因

麻生太郎財務相は今の円安株高で儲けられない企業は経営者が無能か運が悪いとおっしゃるが……円安は『輸入企業・国内消費にメリットがない』、株高は『非上場企業の方が多い・官製相場で持続性が怪しい』ので、利益を出しづらい企業・業種もある。少子化と高齢化の問題・責任を比較しても意味がない。

「産まない方が問題だ」発言、麻生財務相が釈明

文明社会の発達段階において『多産多死→多産少死→少産少死』の必然的プロセスがある。このプロセスを通して『個人の自意識・生活水準の要求』は高まり、子の人権も承認されて『子孫を家・親が道具的に扱う社会システム』が禁圧され『親のための子の孝行(儒教原理)』が『子のための親の献身(近代教育原理)』に変わる。

成熟経済・先進国の少子化の原因はある意味では極めてシンプルで、『子沢山であるほど家計・老後の助けになる前近代的な農耕社会・家内労働のシステム』が崩れたからである。近代中期までは『学歴・技能を問わない労働力』の需要が旺盛であった為、農村経済が疲弊しても意欲・素直さがあれば『金の卵』として重宝された。

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