総合評価 89点/100点
敵地に潜入するアメリカ軍の危険な特殊工作任務を遂行するネイビーシールズの精鋭たちが、苦痛と恐怖、疲労、不快に限界まで晒されしごかれる映像から映画はスタートする。軍の各部隊から寄り集められた精鋭の多くは、過酷さを極めるネイビーシールズの訓練に耐えられずに自分で『屈服の鐘』を鳴らして脱落していき、最後まで残った隊員たちはその限界状況の共有体験から実の兄弟以上の強い絆で結ばれている。
アフガン戦争後の対アルカイダ掃討戦における一つの作戦の実話をベースにした作品。最後まで戦い抜く精神力を試されて乗り越え続けてきた4人のネイビーシールズが、アフガニスタンの山岳地帯で『死が避けられない銃撃戦の極限状況』に陥り、最新鋭のライフルを用いた決死の抵抗戦も虚しく、足場の悪い地形に慣れたタリバン兵の大軍に押されて次々に戦闘不能な深手を負わせられていく。その絶体絶命のアフガンの岩山での戦闘から、ただ一人のアメリカ兵だけがいくつもの銃創・骨折を負った瀕死の状態で生還した。
ストーリーといえばただそれだけであり、端的にはアフガン戦争における『タリバン掃討作戦』のアメリカの正義を称揚して、タリバンの残酷さとパシュトゥーン人(反タリバン勢力)と米軍の友誼を浮き彫りにする映画なのだが、アフガンの峻険な岩山で展開される戦闘を中心に、『戦争映画としての緊張感・臨場感(負傷の苦痛のリアリティ)』が抜きん出ている。
戦争シーンの迫力とネイビーシールズの絶望的状況での抗戦(戦闘ヘリ・アパッチの機銃掃射による支援を待ち焦がれる状況)に引き込まれて、一気に最後まで見てしまう作品世界の勢いがあるが、4人の隊員は銃撃による負傷だけではなく岩山・崖からの激しい滑落を繰り返して、全身が段階的にずたぼろに切り裂かれて満身創痍の状態になっていく。
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総合評価 90点/100点
膨大な時間をかけて、見出し語24万の今を生きる辞書『大渡海(だいとかい)』を地道にコツコツと作成・編集し続けた人たちの姿を描く。時代設定は、PHSが発売されて間もない時期ということだから1990年代の前半くらいだろう。如何にも地味で華がないように感じられる『辞書・辞典』の類の作成は、出版社では極めて人気のない部署であり、若手の社員は辞書編集部に配属・転換させることを退屈な仕事やキャリアからの脱落として敬遠している。
辞書編集に精力的に取り組んできたベテラン編集者の荒木公平(小林薫)が定年退職すると聞いた国語学者・監修者の松本朋祐(加藤剛)は、『荒木君の代わりを務められる人がいるとは思えない』と愁眉を寄せるが、軽薄な若手社員の西岡正志(オダギリジョー)が見つけて連れてきた営業部の馬締光也(松田龍平)は辞書作成に対する意外なほどの熱意と適性を見せる。松本の馬締に対する期待と評価は次第に高まっていく。
馬締光也(まじめみつや)はその名前の通りに真面目を絵に描いたようなカチコチの男で、とにかく本が好きだからということで出版社に就職してきたのだが、声が小さくてボソボソとしか喋れず、人付き合い(社交)が苦手という性格が災いし、配属された営業部では全く成果が出せずに使えない社員の位置づけになっていた。
そもそも馬締は『本を読むこと・集めること』が極端に好きなビブリオマニア(書籍蒐集家の読書人)であり、『本を売り込むこと・書店や他者に薦めること』が好きなわけではなかったために営業では成績が伸びる余地がなかったのだが、下宿先の自室が本で全て埋まってしまうほどの本好き・文字好きの性格や嗜好が『辞書作成の仕事』にぴったりとはまるのである。
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総合評価 88点/100点
『キックアス』の基本路線はポップでコミカルなアメリカンヒーローものだが、映像表現そのものは結構グロテスクな流血やハードな殺陣を伴っていて、アクション映画としての見所も多くある。会話の中ではスラングや猥語が次々飛び交い、ふざけた敵役のボスは口うるさい自分の母親を偶発的に殺してしまったことから、“マザーファッカー”を自称して暴れまわる。
勧善懲悪のアメリカンヒーローの代表であるバットマンやスーパーマン、スパイダーマン、アイアンマンなどには『財力・特殊能力・宇宙人・身体改造』など普通の人間にはない特別な強み(力の源泉)があるが、キックアス(アーロン・テイラー=ジョンソン)には『正義心・勇気』以外の何もなく、おまけに自前の緑ベースの衣装もセンスがなくてださい。
キックアスは悪事をしている奴らを見逃してきた自分が許せないという動機から始まったオタク系の『なりきりヒーロー』だが、特別に身体を鍛えているわけでもなく格闘技や暗殺術の達人でもないため、犯罪者とぐだぐだな殴り合いになった挙句に負けてしまったりもする。キックアスはSNSのコミュニティを通じて、自分と一緒に自警活動をしてくれるヒーローを募集しているのだが、強い者も弱い者もごちゃ混ぜになった同好の士が集まって『ジャスティス・フォーエバー』という自警集団を結成する。
ちなみに現代のアメリカの州では、当然ながら一般市民の自警活動(実力行使・徒党で威嚇する警察代替行為)は違法行為であり、『キックアス』でも仲間のヒットガールがキックアスを助けるために敵を殺してしまったことで、警察による自警活動(ジャスティス・フォーエバーのような自警団)の摘発が激化していったりもする。
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総合評価 91点/100点
1970年代半ばのF1には、イケメンで女好きなジェームズ・ハント(クリス・ヘムズワース)と職人気質で生真面目なニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)という対照的な二人の天才ドライバーがいた。当時のF1マシーンでさえ270キロ超の時速を出して走ることができ、約20%の確率でF1ドライバーはレースで事故死する運命に常に晒されているという。
正常な神経とリスク判断では、0.01秒単位のわずかな操作ミスやメカニカルエラーであの世にいく異常なスピードで難易度の高いコースを走り抜くことはできない。冒頭で語られるように、F1の第一線で生死を賭けてトップを競り合うようなドライバーは多かれ少なかれまともな精神状態や人間性ではいられない。
狂気的なリスクテイカーか自分は特別な天才だと思い込める自信家、一般社会に適応できない変わり者、突き抜けた刺激と成功を追い求める野心家、それらの性格と合わせて何らかの手段でレースやマシンに必要な大金(スポンサー)を集められる者が、F1の上位層にまで上り詰めてくる。
容姿端麗で体格にも秀でたイギリス人のジェームズ・ハントは、裕福な生活をして好みの女を抱き、わいわい仲間と騒いで美味いモノを食べる、自分の持てる能力を出し切り人生を最大限に謳歌するために、F1の頂点を天性の才能と決死のリスクテイクで目指す。
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総合評価 80点/100点
2014年、人類は長期的な懸案である地球温暖化を決定的に抑制するため、新開発された冷却物質を大量散布したが、過剰冷却効果によって地球の気候は急速に氷河期のような寒冷気候となり、人類と地上の生物は絶滅の危機に瀕することになった。17年後の2031年、人類が唯一生存を許された空間は、核融合の永久機関で地球上を走り続ける列車『スノーピアサー』の内部だけとなり、そこには先頭車両にセレブな支配階層、後部車両に奴隷的な貧困階層が位置する『厳格な階級社会』が形成されていた。
列車スノーピアサーは世界一周の高速鉄道網を建設したいという鉄道王ウィルフォード(エド・ハリス)の夢を実現したものであり、ウィルフォード社が所有・管理するスノーピアサーはウィルフォードを絶対的な独裁者とするミニチュア国家となり、富裕層と貧困層の階級対立が次第に激化していた。過去に後部車両の貧困層が一斉蜂起する革命的事態も勃発したが、マシンガンなど重火器の武力を保有するウィルフォードらに対抗することはできず、大量の犠牲者を出して鎮圧されてしまった。
スラム街のような劣悪で不潔な環境で寝起きして、強制的に各車両での労働・役割を割り振られること(あるいは過去に極限の飢え・渇きの状態を放置され続けて大勢が死んだこと)に不満を覚えていただけではなく、後部車両に子供が産まれても一定の年齢に達すると取り上げられてしまう。前方の車両へと子供たちが連れて行かれてしまうことに、親たちは不満・怒り・心配を募らせていたが、連れ去られた子供たちがどのようにして生活しているのかは何も分からない。配給される食糧も、真っ黒な色をした得体のしれない不気味なプロテインブロックのゼリーが一種類だけである。
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総合評価 78点/100点
オーディン(アンソニー・ホプキンス)を主神とする北欧神話を題材としたファンタージ・アクションで、オーディンの二人の息子のソー(クリス・ヘムズワース)とロキ(トム・ヒドルストン)の対立・協力を軸にしながら神と魔物の戦いの物語がしていく。
神々の世界であるアスガルドの王位継承者であるソーと地球に住む人間の女性のジェーン(ナタリー・ポートマン)との恋愛も随所に織り込んでいる。『マイティ・ソー ダークワールド』では、ジェーンがダークエルフのエネルギーである“エーテル”を偶然身体に取り込んでしまったことで、ダークエルフから狙われることになり、ソーがジェーンを救うという流れになっている。
『マイティ・ソー』の前作では、王位簒奪を企図する弟のロキと兄のソーとの対決が中心になっていたが、第二作の『ダークワールド』では表面的ではあれソーとロキが協力してダークエルフと戦う内容になっている。
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