仏陀(釈迦)が起こした仏教は、煩悩・欲望の源泉である『自我』を滅却しようとする特異な宗教であり、自我の現れとしての『自己顕示・慢心・自慢』を戒めている。
砕けたポップな言葉で経典の言葉を今風に翻訳した『超訳 ブッダの言葉』を電子ブックで買ったので、その言葉を引きながらブッダの思想や仏教の世界観を考えてみます。
ちょっと言葉が砕けすぎているというか、原文ままの翻訳ではない意訳なので、仏教の学問的な勉強(哲学的・権威的な固い文言を読みたい目的)には向いてないですが、気楽に人生哲学のようにして読み流す一般人向けの本としては良いと思います。『超訳 ニーチェの言葉』の姉妹本ですが、こちらも岩波文庫のように哲学的な重厚感、解釈の奥行きを感じさせる文章(読む人を選ぶ文章)ではなく、現代風のざっくばらんな話し言葉を意識して書かれた文章ですね。
諸法無我とは『自分』と『他人』との境界線が消えることであり、自我の実在性(確固とした他と区別される自分の意識)がいずれは死滅する虚妄・幻影だということを達観することなのだが、自分の価値を顕示しようとする試みは自他の心を惑わせ、いずれは挫折する(生命が燃え尽きる)宿命の下にある。
029 『誰々の』を忘れるハピネス
『この考え(アイディア)は僕のオリジナルさ』
『これはあの人の発案だ。負けたなぁ』
『これはあいつの意見だ。けなしてやろう』
これら『誰々の』という狭い見方をすると、君の心は、我他彼此(がたぴし)と苦しくなる。
『自分の』『他人の』。
このふたつを君が忘れ去ったなら、仮に何も持っていなくても、幸せな心でいられるだろう。
経集951
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『大人の社会(会社)』で、弱い立場にある相手を追い込むいじめ・嫌がらせのパワハラが蔓延している。いじめ・嫌がらせを自己正当化するような大人が後を切らないのに、『子どものいじめ問題』に真剣に対応できるはずがないと思わせられる労働相談統計の結果であるが、2012年のパワハラ相談件数は5万1670件(同12.5%増)にも上るという。
パワーハラスメントとは、相手が逆らえないと推測される『職業上の地位・権限・命令』を悪用して、自分よりも下位の弱い立場にある従業員に対して、『人格否定(能力否定)の暴言・叩いたり蹴ったりの暴力行為・違法なサービス残業(長時間労働)の強要・言うことを聞かないと解雇や不当待遇をするぞとの脅迫』をすることであり、従業員に不当に『精神的・肉体的な苦痛』を与えることである。
職場にいづらくして間接的な解雇を行うためにパワハラが行われることもあるが、その多くは『上位者のストレス・過労状態・不平不満』の八つ当たりのストレス解消であったり、権力関係(立場の違い)を強調するデモンストレーションであったりする。
とはいっても、全ての職業上・職位上の下位者がパワハラの被害者になるわけではなく、『キャリアアップの転職をすることが困難であることが自明な人材(絶対にその仕事を辞められないという危機感が強いが職能上のニーズは大きくない人材)』や『性格的に抵抗力や自己主張が弱そうに見える相手(いくら暴言暴力を浴びせても反抗してこないと見られた相手)』がターゲットになりやすい。
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都心部の家賃の高さと雇用の不安定化・低所得化によって、『家族以外の他人』と一つの部屋の家賃を折半するシェアハウスが増えている。メディアでは家賃が数十万円以上する床下面積の広い高級物件を、定職のあるシングルマザーがワリカンで賃貸する『プチセレブなシェアハウスの事例』なども取り上げられていたことがあるが(仕事で長く留守にする時や子どもが病気になったりした時にはお互い様で助け合いやすいなどのメリットもあるが)、その対極にあるのが『貧困ビジネスとしてのシェアハウスの事例』だろう。
脱法ハウス:窓無し3畳半に2人 退去強要、行き先なく
同じシェアハウスでも『気の知れた友人知人(信頼できる相手)との快適なシェアハウス・自分の部屋がある同居』と『利益至上主義の業者(大家)が管轄するシェアハウス・狭小なスペースへの押し込み』では全く異なるわけで、『6畳以下の狭い部屋に2人以上を強引に詰め込む型』は、ただ寝るためだけに屋根がある場所を提供する貧困ビジネスである。
外と換気できる窓さえない狭い部屋への詰め込みは、安全上の問題があり消防法に違反している疑いもある。それ以上に、自由に動いたりのんびりくつろいだりできる専有スペースがほとんどなく、風呂・トイレも共有で遠慮しなくてはならない『精神的ストレス・作業効率や集中力の低下』の問題は大きく、基本的に一日の大部分を屋外で過ごすライフスタイルにならざるを得ないだろう。
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古代ギリシア哲学のアルケー(万物の根源)の考察や一神教の唯一神による世界創造の前提は、『世界にある事物』の根本原因を想像力によって仮定しようとするものでした。哲学の始祖と呼ばれるターレスが『アルケーは水である』と語ったことの意義は、モノを構成する素材としての究極的な原因を仮定するということですが、この仮定はアリストテレスの原因論でいう『質量因』になります。
アリストテレスはリュケイオンの講義で、物事の原因には『質量因(物理的に何からできているか)・目的因(何のためにあるか)・作動因(何によって引き起こされたか)・形相因(どのような形態を本質的に持つか)』の4つがあるとしましたが、近代科学に継承された因果論の中心は作動因でした。近代科学の発明以前には、アリストテレスが夢想した究極原因としての『不動の動者』があり、そのイデアから連想された『絶対神』があり、あらゆるモノの起源はそういった絶対的な実在・観念に還元され得ると考えられました。
特定可能な原因があって結果が起こる、原因を理解すれば結果を変更・制御することができるというルネ・デカルトやインマヌエル・カントがもたらした『近代科学の思考方法』は、すべての物事を一つの因果の系列に位置づけました。次第にその原因の始点には、『神』ではなく『無機的な自然法則・悟性的な人間(認識主体)』が置かれるようになっていき、ルネサンス以降の神に拘束されない人間中心主義が花開きます。
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仕事でも試験でも人間関係でも、何か一つ失敗やミスをすると、『自分は能力・魅力がないつまらない人間だ』『この失敗を取り戻すことはできないから何をやっても無駄だ』と自己否定してしまい、その結果として生じる『ネガティブで陰鬱・無気力な精神状態』に浸り込んでしまうことがある。
『明るくポジティブな気分』を誰もが持ちたいと思うものだが、現実には『暗くてネガティブな気分』にも、『価値がないと思っている自分』を更に自己否定することによって、それ以上の失敗・挫折(傷つき)を回避することができるという依存性がある。
自己価値が貶められたり何かが上手くいかなくて傷つくことに対して、『認知的な予防線』を張ることができるため、人間の多くは意外にも、『暗くてネガティブな発想・気分』にはまり込んで、そこから自虐的・悲観的な快楽を際限なく得ることができるという側面を持っている。『暗鬱・悲観の蜜』はたまに詩情や自省の余韻を持って味わうくらいがなら良いが、自分をけなしたり貶めることによって『今の時点以降の意欲・希望が生む可能性』を何もしないままに失ってしまうのは大きな損失となる。
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日本学生支援機構が、2008年以降の利用者で3ヵ月以上返済を滞納している人の情報を、全国の銀行個人信用情報センターに登録してブラックリスト化するなどの『回収強化策』を検討しているという。ただそれなりの大学を卒業するだけでは、安定した長期の正規雇用(正社員・公務員での就職)が保障されない時代となり、『大卒資格=平均以上の年収があるサラリーマンの登竜門』だった時代の意識で奨学金を借りることがハイリスクになりつつあるということか。
奨学金を返済できない人間は“ブラックリスト”に載せられる
奨学金の返済に困って、生活が圧迫されたり自己破産するといった同種の問題は、有利子の貸与型奨学金(学士ローン)が多いアメリカでも起こっている。働く意志があるのに、職(仕事)に恵まれない人が『貸与型奨学金(学生ローン)』の返済の困難によって、更に働きづらくなるという悪循環は改善しなければならないだろう。
子供を大学に進学させようとする家計の平均所得が低下してきたことで、大学の学費全額を出してあげられない親世帯が増加し、『奨学金返済の問題』がクローズアップされるようになってきたが、現在では何らかの奨学金を借入れている学生が約50%に上るようになっている。
大学生の奨学金問題の背景には『日本の国家としての教育政策の欠点・予算の少なさ』と『大学教育のインフレ化・大衆化(大学進学率の50%超え)』があり、日本は国際人権a規約(13条2項b、c)に示される『高等教育無償化』以前に『高等教育の負担軽減策』も殆ど講じないまま、国公立大学の授業料上昇にも歯止めを掛けてこなかった。その結果、入試難易度や大企業就職率が高い大学・学部では、入学者の親の平均所得が高い傾向を示し、親の経済格差(親の教養・趣味など社会資本要因)が子の教育格差(教育環境)に連鎖しやすい構造問題が生まれているなどの指摘もある。
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